少し前に、ホンダが通勤手当を廃止して、実際に出社した回数に応じて実費精算で支払うというニュースがありました。当社でも8月より定期代相当の通勤費の支給をやめ、実費精算に切り替えています。緊急事態宣言が終了した後も、一定の割合で在宅勤務が定着しつつあるからです。

ちなみに、私の通勤経路(JR西日本)で計算した場合、営業日のうち出社しない割合が概ね半分以下にいなると実費精算のほうが安くなります。

個人にとってみれば、通勤手当の支給だろうと実費精算だろうと、それが通勤の実態に合っていれば自己負担はプラスマイナスゼロであり、損得はありません。しかし、通勤手当を含めた給与支給額は変わってきます。多くの場合、実費精算により支給額は減ることになるでしょう(でなければ会社は実費精算に切り替えるメリットがないので)。

ではこの場合、税金や社会保険料を考慮した実質的な手取りはどう変わるのでしょうか。それとも全く変わらないのでしょうか。

通勤費はもともと非課税

まず、税金に関しては通勤手当だろうと実費精算だろうと所得税や住民税の対象にはなりません。所得税や住民税は「所得」、すなわち収入金額から必要経費を差し引いた「実質的に稼いだ金額」に対して税を課すというのが基本的な考え方です。通勤のための費用は仕事をするための必要経費ですから、課税対象外というわけです。

注:ただし、非課税扱いにできる通勤費には上限が定められており、あまりに高額な場合には課税対象となります。

ですので、見た目の給与支給額が変わっても税金の負担額は変わらず、実質的な手取り収入にも影響しないことになります。

社会保険料の計算では通勤費も報酬に含まれる

これに対して、社会保険料(厚生年金保険料や健康保険料など)の計算のもととなる「報酬」には通勤手当を含める扱いになっています。厚生年金保険法における報酬の定義は次のとおりとなっており、住宅手当などと同様に通勤手当も(名称を問わず)含まれます。
賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受ける全てのものをいう。
ただし、臨時に受けるもの及び3月を超える期間ごとに受けるものは、この限りでない。

なお、会社によっては6ヶ月定期代に相当する金額を6ヶ月ごとに支給しているケースもあり、これだと「3月を超える期間ごとに受けるもの」に該当しそうですが、これについては以下のような解釈が通知で示されています。
支給の実態は原則として毎月の通勤に対し支給され、被保険者の通常の生計費の一部に当てられているのであるから、これら支給の実態に基づいて当然報酬と解することが妥当と考えられます。

つまり、毎月支給するものでなくても1月分を報酬に含めて社会保険料を計算することとなっています。社会保険料の計算に含まれるということは、将来受け取る厚生年金額の計算にも反映されるということです。

ですから、通勤手当が定期代から実費精算になることで会社からの給与支給総額が減少すると社会保険料も減少し、実質的な手取りは若干増える可能性があります(一方で将来の厚生年金額は若干減る可能性があります)。実際には、1~3万円程度ごとに区分された標準報酬月額の等級が変わらなければ社会保険料は変わりませんが(雇用保険料などを除く)、例えばフルリモートで通勤手当が0になる場合などでは影響が出るかもしれませんね。

そもそも通勤手当は必ず支給しなければならないものではないため、その意味ではそのほかの手当と同じように報酬に含めるというのは妥当なのかもしれません。ただ、例えば住宅手当を生計費の一部と考えるのに違和感はありませんが(仕事の有無にかかわらず住居費はかかる)、通勤にかかる費用は生計費の一部というよりも仕事のための費用と考えるのが自然でしょう(実際、税制はその考え方をとっている)。実費精算となればなおさらです。

定期代か実費精算かにかかわらず、通勤にかかる経費の支給の有無や大小によって社会保険料の負担や将来の年金額が変わるというのはやっぱり"変"ですね。