最近、副業や兼業(以下まとめて「複業」と書きます)についての話題をよく目にするようになりました。複業にも色々なパターンがありますが、その中で2ヶ所以上から給与を受け取り、かつ税金も社会保険料も徴収されているケースは稀だろうと思います。

というのは、ある勤務先での週の所定労働時間が20時間未満だと、その会社では社会保険(被用者保険)の適用要件を満たさないからです。A社とB社の2社で複業しているとして、週の総労働時間を40時間とすると、それぞれちょうど20時間ずつでないと両社で要件を満たすことはありません。

しかし例外があって、それは法人の役員であるケースです。役員も、無報酬や非常勤である場合を除いて被用者保険の対象になっています(法律上は必ずしもそうは読めないんですけどね…)。役員には所定労働時間という概念はありませんので、A社で常勤の役員を務めながらB社の社員として20時間以上働く、もしくはA社とB社の両方で常勤の役員を務める、といった場合には、両社で被用者保険の適用を受けることになります。もちろん給与の源泉徴収もあります。

額面の総額は変わっていないのに税金の天引きが増えた

で、期せずして、この7月より私自身がそのような状況になりました。IICパートナーズから分社化したクミタテルの代表取締役になるのと同時に、引き続きIICパートナーズの取締役も兼務することになったからです。(これとは別に、個人としても他から若干の報酬を得ることになったのですが、それについてはまた改めて。)

給与の総額(額面)は6月から変わっていないのですが、7月、所得税の源泉徴収額が増えました。これはどういうことなのか?

それぞれの給与明細をよく見ると、IICパートナーズの明細の税額表の欄には「甲欄」、クミタテルの明細の税額表の欄には「乙欄」の記載があります。これは源泉徴収額の計算に用いる表のことで、国税庁のサイトに次のような説明があります。
「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している人に支払う給与については「甲欄」を、その他の人に支払う給与については「乙欄」を使って税額を求めます。
「給与所得者の扶養控除等申告書」は年末調整のときに書いて出す書類ですね。実際の税額表はこのようになっています。根拠までは調べられてないですが、乙の金額は甲に比べてめちゃ高いです。おそらく(国が)とりっぱぐれのないような設定になっているのでしょう。

そして給与から源泉徴収を行うときには、「給与所得者の扶養控除等申告書」が提出されているものには「主たる給与」として甲欄を、それ以外は「従たる給与」として乙欄を用いて計算するルールになっています。

そのため、IICパートナーズからの給与についてはこれまでどおり甲欄で計算されていましたが、クミタテルからの給与についてはめちゃ高い乙欄で計算され、手取りが減ってしまったというわけです…。最終的には確定申告で返ってくるからまぁいいんですけどね。

ちなみに、乙欄で計算されているほうは年末調整の対象外となるようです。言い換えると、ちゃんと確定申告しないと減った手取りは戻ってこないってことです。

なお、住民税については前年の所得に対して確定した納税額を6月からの1年間で支払う仕組みになっているので、全額がIICパートナーズの給与から控除され(クミタテルの給与からの控除はなし)影響はありませんでした。

変わらないはずの社会保険料も変わった!?

一方、社会保険料のほうはというと、こちらは当月分を翌月の給与から引き去ることになるので、7月は従来通りIICパートナーズの給与から社会保険料の全額を天引き(クミタテルの給与からの引き去りはなし)、8月からは両社の給与から引かれるようになりました。

ただ税金とは異なり、(社会保険の適用となる会社からの)給与を合計したうえで標準報酬月額とそれに基づく社会保険料を算出するので、給与の合計額が変わらなければ天引きされる社会保険料の合計額も変わりません。全体の社会保険料の額をそれぞれの会社の給与の比率で割って、各社の給与から引き去ります。

社会保険料はおおざっぱに言えば「給与×一定率」なので、わざわざ合算せずにそのまま会社ごとに計算しても基本的に違いは出ないはずです。ただし標準報酬月額は「等級」で区分されているため(例えば報酬月額29万円以上~31万円未満の範囲は1つの等級に区分され、標準報酬月額は30万円となる)、会社ごとに計算すると端数の関係で違いが生じる可能性があります。

また、標準報酬月額には上限(厚生年金保険では62万円、2020年10月からは65万円)があるため、給与の合計額がこの上限を超えていると違いが大きくなります。

例えば2社から50万円ずつ給与が支払われていたとして、別々に厚生年金保険料(本人負担分)を計算すると合計で50万円×9.15%×2=9.15万円になりますが、正しくは合計額に対して上限を適用するので62万円×9.15%=5.673万円となります(両社の給与から半分ずつ引き去り)。つまり1社から100万円の給与を受け取る場合と同じです。将来受け取る厚生年金の額も同じになります。

しかーーし、8月の両社の給与明細に記載された社会保険料を見てみたら、明らかに別々に計算されているようでした。確認したところ、按分通知が到着していないため一旦それぞれで計算し、あとで遡って調整するとのこと。このあたりの事務は詳しく知りませんが、計算が複雑でイレギュラーな対応なんでしょうね。

私のケースだと2ヶ所からの支払いといっても親子会社で給与計算も並行してやっているので、2ヶ所から給与が支払われている事実、及びその給与の合計額を把握することは容易です。しかし無関係な別会社だと事務的に色々と混乱を招きそうな気がします。

国としては社会保険の適用拡大を進める方向なので、将来的には労働時間の要件がより短くなる可能性もあります。そうすると、ダブルワーク、トリプルワークで2ヶ所、3ヶ所で社会保険の適用を受ける人が多く出てくるでしょう。会社がすべて計算して天引きする今の仕組みは変えないといけなくなるかもしれませんね。