昨日の朝日新聞の報道によると、厚生労働省は国民年金と厚生年金の積立金の統合について検討を始めるとのこと。

 
2025年の国会への法案提出を目指すとあるので、このとおりであれば次回2024年の財政検証のときまでに実施に向けての具体的な検討及び将来の年金財政、給付水準についてのシミュレーションを行い、財政検証(オプション試算)の結果を受けて法案化するという流れになるでしょう。

帳簿上は分けられている国民年金と厚生年金の積立金

今でも年金積立金の運用については国民年金、厚生年金ともGPIFがまとめて行っています。しかし収支については国民年金と厚生年金の2つの勘定に分けて管理しており、積立金も帳簿上は分けられています。

<参考>厚生年金・国民年金の平成30年度収支決算の概要

上記資料を見て分かるように、厚生年金の歳入・歳出は47兆円台、年度末の積立金(時価)は157兆円台であるのに対して、国民年金の歳入・歳出は3兆円台、年度末の積立金(時価)は7兆円台で、財政規模の違いは歴然としています。

国民年金と厚生年金の積立金を統合するとは、この2つの帳簿を1つにまとめてしまうということですが、そのことと国民年金と厚生年金の制度自体を1つにまとめることとはまた別の話です。では何が変わるかというと、それはマクロ経済スライドの仕組みと関係しています。

マクロ経済スライドで細っていく国民年金

マクロ経済スライドは、長寿化、少子高齢化が進んでいっても将来世代の年金水準を確保できるよう、今のうちから少しずつ年金額を抑制していく仕組みです。例えば2019年度の基礎年金額は、もともとの考え方では現役世代の賃金水準の上昇率(0.6%)でもって増額されるところを、マクロ経済スライドを適用することで0.1%の増額にとどめています。

この年金額の抑制は、「今後マクロ経済スライドを適用しなくても100年間は積立金が枯渇しない(注)」ことが見込めるようになるまで続けられます。そして、この判定は国民年金と厚生年金で別々に行うことになっています。
注:正確には100年後の積立金の水準が概ね1年分の給付費を確保していること。

今年の財政検証では6つの経済前提の下で今後100年間の財政の将来見通しが示されましたが、いずれのケースでも財政規模の小さい国民年金のほうが、マクロ経済スライドによる年金額の抑制が長く続くことが見込まれています。

ケースⅢを例にとると、厚生年金は2025年度にマクロ経済スライドの適用が終わるのに対して、国民年金は2047年度まで続く見通しとなっています。この結果、会社員などで厚生年金に加入していた期間と報酬に比例して支給される老齢厚生年金の実質的な水準は今とそれほど変わりませんが、全国民共通で加入期間に応じて定額で支給される老齢基礎年金の実質的な水準は大きく下がっていくことになります。

■所得代替率で見た年金水準の変化(2019年度 → マクロ経済スライド終了時)
・老齢厚生年金:25.3% → 24.6%
・老齢基礎年金:36.4% → 26.2%

自営業、非正規雇用、専業主婦(パート含む)等であった期間が長く、老齢厚生年金が少ない(老齢基礎年金がメインとなる)人の年金水準はもともと低いわけですが、マクロ経済スライドによってこうした人たちの年金水準がさらに低下してしまうことになります。

積立金の統合により基礎年金の水準低下に歯止めをかける

こうした問題への対応策の1つとして考えられるのが今回の報道にあった積立金の統合です。財布を同じにすることで、今は厚生年金の積立金として管理されている資産からも国民年金の給付を支払えるようにします。マクロ経済スライドの適用終了についても、国民年金と厚生年金を合算した積立金の水準で判定し、同じタイミングで実施します。

これによって、老齢厚生年金に対する適用終了時期は若干先延ばしになり、老齢基礎年金に対する適用終了時期は大幅に早まることが想定されます。その分、老齢基礎年金の水準低下を防ぐことができます。

もともと仕組みの異なる厚生年金と国民年金は、これまで財政上も別に管理されてきており、統合にあたっては様々な課題も出てくるのだろうと思いますが、実現に向けて検討を進めるべき重要なテーマであると考えます。