8月27日に公表された公的年金制度の2019年財政検証結果について、以下の2本の記事にまとめました。





今後の制度改正の議論はこれらの結果をもとに進められていくことになりますが、個人の立場からは今回の財政検証結果をどうとらえればよいでしょうか?

「年金2割減」は一面的な見方でしかない

財政検証の公表を受け、年金水準が2割減少するという報道が各所からなされています。

年金財政検証を公表、30年後に2割目減り(共同)
年金水準、高成長でも2割減 厚労省が30年後見通し(朝日)
年金給付水準 2割弱目減り 厚生年金「所得代替率」28年後の見通し(毎日)

確かに今回の財政検証では、「経済成長と労働参加が進むケース」でも「所得代替率」は現在の60%強から50%強へと2割程度低下していく見通しとなっています。しかし年金水準を所得代替率だけで見るのは誤解の元です。

そもそも所得代替率とは、財政検証のために定められたモデル世帯において、65歳年金受給開始時の年金水準が現役世代の手取り収入に対して何%であるかを示したものです。年金で基本的な生活費が賄えるかどうかという意味では、現役世代の賃金水準よりも物価水準との比較が重要といえます。

例えばケースⅢで年金額の調整が終了する2047年度では、所得代替率は現在の61.7%から50.8%まで下がりますが、夫婦のモデル年金額は、2019年度の物価水準に割り戻した金額で22万円から24万円にむしろ増えます。ただ、その間に現役世代の手取り収入は35.7万円から47.2万円に増えていますので、それに比べると2割程度伸びが抑えられるということです(金額はいずれも月額)。

今回の財政検証結果をもとに、2019年時点の年金水準を100としたときの、対賃金(所得代替率)で見た場合と対物価で見た場合の将来推移を比較すると以下のとおりとなります(横軸は西暦)。
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経済前提の置き方によってかなりばらつきは大きくなりますが、対物価では必ずしも年金水準が下がるわけではないことがわかります。現役時代と比べた相対的な収入水準は下がっても、最低限必要な生活費に対する絶対的な水準はそれほど下がらない(上がる可能性もある)ということです。

所得代替率ベースで年金水準を維持する方法

今回の財政検証では、個人の選択により所得代替率ベースでの年金水準を維持する方法についても提示されています。所得代替率のもとになっているモデルでは60歳までの40年間就労し、65歳から年金を受給することとしていますが、就労引退年齢と受給開始年齢を何歳まで延ばせば年金水準を維持できるかという試算です。

計算前提ケースⅢでは以下のような結果となっています(縦軸が2019年度時点の年齢、横軸が就労引退年齢と受給開始年齢)。
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今65歳の人は、モデルどおり60歳で引退して65歳から年金の受給を開始することとなっていますが、例えば今40歳の人は66歳7か月まで就労を続け、そこから年金の受給を開始する(1年7ヶ月受給を繰り下げる)ことで今と同じ年金水準(所得代替率ベース)を確保できることがわかります。計算前提Ⅴのケースだと、最大2年程度、就労引退と受給開始を遅らせる必要があります。

同水準の年金を確保するために受給開始を遅らせるとなると損するように思えますが、ケースⅢの場合、平均余命の延び(長生きするようになる)ことを勘案すると、平均受給年数は以下のとおり若い世代の方が長くなります。受取総額で考えれば増えるということです。
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ただ平均余命が延びると、年金財政全体に影響を与えないようにするためには繰下げ受給の増額率を減らす必要があります(現在は1年あたり8.4%の増額)。今回の試算ではそこまでは織り込まれていないと考えられるため、将来的に増額率が低下した場合には、就労引退・受給開始年齢をもう少し遅らせないと現在と同じ水準(所得代替率ベース)にはなりません。

最終的には「自分の場合」で考えなければならない

ここまで個人の立場から、特に受け取る年金額の水準という観点で今回の財政検証結果を見てきましたが、所得代替率(対賃金)で見るにしろ対物価で見るにしろ、所詮は架空の前提を置いたモデルに基づく指標に過ぎません。

夫婦世帯なのか単身世帯なのか、共働きなのか片働きなのか、現役時代の就労形態や収入の水準、いつまで働いていつから年金を受け取るかといったことによって、実際に受け取る年金額は人・世帯によって様々です。

現役世代には年に1回誕生月に「ねんきん定期便」が送られ、これまでの加入実績に応じた年金額を確認することができます。50歳以上になると、現在の収入等の条件が60歳まで継続された場合の見込額も掲載されるようになります。

さらに、日本年金機構のねんきんネットに登録することで、50歳未満であってもWebで将来の年金額の見込みを試算することができ、今後の就労期間や受給開始年齢を延ばした場合等の試算も行うことができます。

ここで試算される結果はその時点の支給率等に基づくものであり、前提条件どおりに推移しても実際に受け取る年金額はこれとは変わっていくことになります。しかし、自分で自分のケースを確かめることによって、「○年後には年金は□割減る」といった報道を聞いただけではわからない、リアルな将来見通しを把握することができるでしょう。