昨日、公的年金制度の2019年財政検証結果が公表されました。財政検証では現行制度の下での年金給付水準の将来見通しを試算し、目標水準である「所得代替率50%」を確保できるかどうかを確認します。あわせて、制度改正を行った場合の「オプション試算」を実施することで、その効果についても確認します。

財政検証は5年に1度実施することとされており、前回の2014年財政検証は以下のような結果となっています(縦軸が所得代替率、横軸が西暦年)。
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将来見通しの試算にあたってはA~Hの8つの経済前提が置かれ、A~Eの「労働市場への参加が進むケース」では所得代替率50%を維持できる結果となりましたが、F~Hの「労働市場への参加が進まないケース」では所得代替率が将来的に50%を下回る結果となりました。

なお、2030年以降水準の低下が急になっているように見えますが、これは横軸が5年刻みから10年刻みになっているためです(以下同様)。また、出生率や死亡率の仮定については中位に加えて高位、低位のパターンでも試算されていますがここでは割愛しています。

2014年財政検証ではオプション試算として「1.マクロ経済スライドのフル発動」「2.被用者保険の適用拡大」「3.保険料拠出期間の延長」の3種類が実施され、このうち1.と2.については法律改正により一部実施済みです。

そして今回の2019年財政検証は以下のような結果となりました。
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前回と同様、試算には複数の前提が置かれ、Ⅰ~Ⅲの「経済成長と労働参加が進むケース」では所得代替率50%を維持できる結果となりましたが、Ⅳ~Ⅴの「経済成長と労働参加が一定程度進むケース」とⅥの「経済成長と労働参加が進まないケース」では将来的に50%を下回る結果となっています。

前回と今回の結果を重ね合わせると、以下のようになります。
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最終的な所得代替率の水準についてはケースに応じた幅も含めて前回とほぼ同じ水準となっていますが、そこに至る過程については前回を若干上回って推移しています。

今回のスタート時点で前回の見通しを上回っているのは、2014年以降、賃金や物価が上がらなかったことでマクロ経済スライドが発動されない年が多かったことによるものです。結果として将来世代の年金給付に回すべき原資が減ってしまい、最終的な所得代替率を下げる方向に作用しているはずですが、積立金の運用状況が良かったことに加え、就業率の高まりや厚生年金の適用拡大などによってカバーされたものと考えられます。

また、将来推計に影響を及ぼす長期的な経済前提については全体に前回よりも抑えた設定となっています。
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※実質賃金上昇率:賃金上昇率のうち物価上昇率を上回る分
※実質運用利回り:運用利回りのうち賃金上昇率を上回る分

一方で労働参加については全体に前回よりも進む前提が置かれています。

【将来の男性の年齢階層別就業率】
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【将来の女性の年齢階層別就業率】
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いずれも直近の実態を踏まえて見直されており、前回との比較で言えば、双方の影響が相殺される形になっています。その他、長期的な出生率や死亡率の前提についても直近の実績に沿う形で見直されています(出生率の前提は上昇、死亡率の前提は低下)。

まとめると、前回の財政検証との比較では、以下のような要因が相殺されて最終的な所得代替率の見通しはほぼ同じ水準になったということになります。

<所得代替率の見通しを高めた要因>
・前回の財政検証以降の運用実績が見通しを上回った。
・前回の財政検証以降の就業率が見通しを上回った(厚生年金の適用拡大による効果を含む)。
・将来の就業率の見通しを引き上げた。
・将来の出生率の見通しを引き上げた。

<所得代替率の見通しを低下させた要因>
・前回の財政検証以降、物価・賃金の上昇が見通しを下回り、マクロ経済スライドが部分的にしか発動されなかった。
・将来の経済前提を引き下げた。
・将来の死亡率の見通しを引き下げた(平均余命の見通しを引き上げた)。


なお、今回のオプション試算の結果については別記事でまとめたいと思います。