定年延長の際に論点の1つとなるのが退職金の支払い時期です。例えば定年年齢が一律60歳から65歳になると、従来は60歳で退職金を受け取ってその後再雇用により65歳まで働けたのが、定年延長後は中途退職しない限り65歳まで退職金を受け取れないことになります。退職金で住宅ローンの返済等を計画していた場合には、その計画が狂ってしまいます。

このため、定年は65歳まで延長しても、退職金は従来どおり旧定年である60歳到達時に支払う扱いとすることが考えられるわけですが、その時に問題となるのが税金です。

退職金は税制上、給与とは別の「退職所得」に区分されるため、かなり大きな額まで非課税となります。しかし、退職所得と認められるには「退職に起因して支払われるもの」であることが基本的な条件となっていることから、退職していないのに「退職金」を受け取ると税制上は給与所得となり、多額の税金がかかってしまいます。

この点について、国税庁はいくつかの例外を設けており、定年延長の際の旧定年での退職金支給については以下のような考え方を示しています。
引き続き勤務する役員又は使用人に対し退職手当等として一時に支払われる給与のうち、次に掲げるもので、その後に支払われる退職手当等の計算上その給与の計算の基礎となった勤続期間を一切加味しない条件の下に支払われるものは、退職手当等とされます。

(1)~(4)(略)
(5) 労働協約等の改正により、いわゆる定年を延長した場合に、旧定年(延長前の定年をいいます。)に達した使用人に対し、旧定年に達する前の勤続期間に係る退職手当等として支払われるもので、その支給をすることにつき相当の理由があると認められるもの
(6)(略)
※「タックスアンサーNo.2725 退職所得となるもの」より抜粋

一見すると「旧定年での退職金支給は退職所得でOK」とも読めますが、気を付けないといけないのは「相当の理由があると認められるもの」の部分です。どのような理由であれば「相当の理由」として認められるのかの具体的な説明はなく、結局は税務当局の判断次第ということになります。

しかし全く何も判断基準が示されていないかというとそういうことではなく、事前照会に対する熊本国税局の文書回答事例が掲載されています。

定年を延長した場合に従業員に対してその延長前の定年に達したときに支払う退職一時金の所得区分について

照会者が提示した「相当の理由」
【定年延長前に入社した従業員に対して】
・従業員は、旧定年のときに退職一時金が支給されることを前提に生活設計をしており、定年延長に伴い退職一時金の支給が64歳になると不都合が生じるため、旧定年のときに本件退職一時金を支給するように希望していること。
・定年の延長にかかわらず退職一時金の金額は変わらないことになるため、退職一時金の支給を64歳に変更することは当該従業員にとって不利益な変更となり、このような不都合及び不利益は、雇用主として配慮する必要があること。

【定年延長後に入社した従業員に対して】
・従業員が満60歳に達した日の属する年度末の後において、それまでの給与水準から40%程度減額することを予定しているところ、旧定年のときに本件退職一時金を支給することについては、従業員のその後の生活資金の補填及び人生設計における資産の購入資金に寄与すると考えられること。

熊本国税局の回答
【定年延長前に入社した従業員に対して】
・貴見のとおり取り扱って差し支えない。

【定年延長後に入社した従業員に対して】
・雇用の開始時点で定年を64歳として採用されるため、労働協約等を改正していわゆる定年を延長した場合には該当しない。したがって、退職所得として取り扱われるとは限らない。


ここから言えるのは「退職所得と認められるのは定年延長前に入社した社員が対象であり、『相当の理由』があるかどうかは旧定年で退職金を支給しないことによる不利益の程度による」ということになるでしょう。

ただしこれはあくまで一国税局による一回答事例であり、拡大解釈は危険です。実際に旧定年で退職金を支給する扱いとしたい場合には、個別に税制当局に確認しながら進めていく必要があるでしょう。ちなみに当社のお客様から聞いた話では、同じ会社の中でも60歳で役職定年となるかどうか(処遇がかわるかどうか)で取り扱いが異なるケースもあるようです。