最近、著書のPRを兼ねてその一部を紹介するツイートをよく投稿しています。まあほとんどは大した反応はないのですが、これについては予想外に反響がありました。
コメントの中で目立ったのは離婚に関するもの。離婚の際に老後の資産を確保しておくためにiDeCo(個人型確定拠出年金)に入っておくという声もありました。

しかし離婚に際しては、婚姻中に形成された財産を清算・分配する財産分与という制度があります(相続などにより夫婦の一方が他方と無関係に取得した財産は分配の対象外)。iDeCoの資産もこの財産分与の対象となるのか、また退職金や企業年金などの退職給付についてはどうなのか、疑問に思ったのでこちらの本を読んでみました。



なお、あらかじめお断りしておきますが、iDeCoが財産分与の対象となるかどうかの明確な答えはありませんでした。また私は法律の専門家ではありませんので、自分の場合はどうなのか、どうしても気にある方は弁護士等に相談していただければと思います。

ただ、退職給付の財産分与を考えるにあたってはとても参考になったので、以下にその内容を記しておきます。

財産分与制度のポイント

財産分与とは、離婚にあたり、夫婦の一方から他方に対してなされる財産上の給付であり、その内容は「清算」「扶養(補償)」「損害賠償(=慰謝料)」の3要素を含むとされていますが、実務上、財産分与の主眼が「清算」であることは明らかです。財産分与と慰謝料は二本立て(別立て)となっており、「扶養(補償)」は、財産分与の中では補充的なものとされているからです。
というわけで、ここでは清算的財産分与を取り上げることにします。財産分与にあたり、私がポイントだと考えたのは次の3点です。
  1. 財産分与の対象となる財産の確定・評価は当事者の双方の主張・立証に委ねられている。
  2. 婚姻期間中に夫婦が財産形成に貢献した「寄与度」については実務上「2分の1ルール」が定着している。
  3. 将来支払われる見込みのある退職金や企業年金も財産分与の対象となる。
以下、順にそれぞれの意味するところを考えていきます。なお、国の厚生年金(報酬比例部分)を離婚時に分割する離婚時年金分割制度は財産分与制度とは別の法制度であり、ここでは割愛します。

財産分与は分与対象財産の把握がすべて

婚姻期間中に夫婦が築き上げた財産が夫名義であり、妻が夫に対して財産分与を請求する場合、妻の側が「財産分与の対象となり得る財産として何があるのか、その存在と内容を具体的に主張・立証しなければなりません。」とされています。

となると、離婚時に少しでも多くの財産を確保するためには、妻名義の財産を増やしておくこともそうですが、いかに夫の財産を把握しておくかが重要になります。

でも別に離婚しなくても、夫婦で共同生活を送っていくうえで家計全体の収支や財産をお互いに把握しておくことは重要ですよね。

半分が妻のものになるなら全体を増やしたほうがよい

仮にお互いの名義の財産がすべて把握され、分与対象資産として確定することができれば、「2分の1ルール」により婚姻中に形成された夫婦の財産は半分ずつ分けられることになります。
民法の一部を改正する法律案要綱
第六 協議上の離婚
二 離婚後の財産分与
3 (前略)この場合において、当事者双方がその協力により財産を取得し、又は維持するについての各当事者の寄与の程度は、その異なることが明らかでないときは、相等しいものとする。
つまり、理論上は夫婦全体の財産を増やすことで、離婚した後のそれぞれの財産も増えることになります。もしiDeCoやつみたてNISAの資産が分与対象資産になるのなら、冒頭のツイートにあるように世帯全体の財産を増やす方法を選択することが、結局は離婚後の財産を増やすことにつながります。

ただ夫の資産状況を把握できることが前提となるのは上記のとおりです。

夫の会社の退職金がどうなっているかも確認が必要

財産分与の対象には、現に保有している金融資産や不動産だけでなく、将来支払われる見込みである退職金や企業年金も含まれます。清算金額の具体的な計算方法としては以下のような方法が示されています。
  1. 離婚時の自己都合退職金額×実質的婚姻期間/退職金の基礎となる勤続年数
  2. 「定年退職時の予想退職金額×実質的婚姻期間/退職金の基礎となる勤続年数」の現在価値
  3. 実際の退職金額×実質的婚姻期間/退職金の基礎となる勤続年数
注:3.については実際に清算されるのは離婚時ではなく夫が会社を退職したとき。

このうち最も利用される方法は1.とされていますが、自己都合で算出するために減額される可能性がある点、及び、他に資産がない場合には退職前に一時金での支払い(清算)ができない点が難点です。このため、2.や3.の方法をとることもあるとされています。夫婦間で争いがなければどの方法でもOKですが、妻としては夫の退職金の仕組みを把握したうえで不利な方法は避けたいところです。

また、夫の会社に企業年金がある場合、確定給付企業年金については基本的に退職時に一時金で受け取ることができるので、退職金と同様に考えることができます。また、年金受給中であっても残りの年金に代えて一時金を選択できるのが一般的なので、これも退職金と同様に考えることができます(ただし終身年金だったり給付利率が高い場合だと選択一時金で評価するのは不利なので、最低積立基準額ベースで請求することもあり得る?)。

一方、確定拠出年金(企業型)の場合にはその時点での残高が明確ですので、これを清算金額とすることでよさそうですが、過去の裁判例では掛金の拠出額を限度とする考え方が示されているようです。これは、実際の運用が元本確保型商品により行われているケースが多いこと、投資信託で運用している場合は資産額が日々変動していることが影響しているのかもしれません。

いずれにしても、離婚時の財産分与で不利益を被らないためには夫の退職金についても把握しておくことが重要となります。まあこれに関しても、離婚することなく夫婦でセカンドライフのプランを考える場合にも夫の退職金のことを知っておくことは重要ですよね。

iDeCoの資産は離婚しても守られるのか?

これについては最初に書いたとおり本には明記されていませんでした。しかし、ここまでの話の流れからすると、少なくとも婚姻期間中に夫婦の給与から拠出した掛金に相当する部分については財産分与の対象と考えるのが自然に思えます。

そうであるなら、夫の給与を元手とする掛金を、夫の口座で積み立てようが妻の口座で積み立てようが半分は相手のものになるわけですから、妻が離婚に備えて自分のiDeCo口座に掛金を積み立てるというのは、必ずしも有効な手段とはならない可能性もあります。

ただ、「妻が夫に対して請求する財産分与の清算額>夫が妻に対して請求する財産分与の清算額」だとすると、相殺後に残るのは妻の夫に対する請求だけになります。この場合、妻が自分のiDeCo口座で掛金を積み立てておくことは、自分の老後資金を確実に確保しておくという意味で有効かもしれません。