3月7日に開催された「第10回年金財政における経済前提に関する専門委員会」において、年金財政の経済前提案が示されました。この委員会は厚生労働省の社会保障審議会年金部会の下に置かれているものであり、今年の公的年金の財政検証はこの経済前提案(全6ケース)に基づいて行われることとなります。
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これに対して早速「運用利回りの想定が甘い」という日経の報道があり、すかさず年金部会の委員である権丈氏から批判と皮肉のツイートが発せられています。

日経の記事では、6ケースのうち4ケースで名目運用利回りの想定(3.2%~5.0%)がGPIFにおける2001~2017年度の運用利回り実績の平均(2.8%)を上回っていることから、”専門家”のコメントを引用しつつ「甘い想定に基づく点検は年金給付の過度な運用依存を招き…」としています。

しかし、公的年金財政で重要なのは名目運用利回りではなく、賃金上昇率をどれだけ上回るかという実質的な運用利回り(スプレッド)です。なぜなら、公的年金では保険料も年金額(新規裁定分)も賃金水準に連動しているからです。そのあたりの話(図解)はこちらの記事に掲載しています。

このスプレッドで見ると、2029年度以降の長期の前提は6ケースで最も高い設定でも1.7%(=GPIFにおける運用目標)となっており、過去の実績(下記参照)からすると極めて保守的な設定であるといえます。
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(GPIF2017年度運用概況書より抜粋)

年金財政に大きな影響を与える経済変動は、上記リンク先記事にあるように運用利回りのスプレッドともう1つ「賃金上昇率と物価上昇率の差」、すなわち実質賃金上昇率があります。さらにいえば、物価上昇率のそのものについても長期で見たときに最低限のプラス水準を確保しておかないと、マクロ経済スライドが利かなくなってしまいます。

これらについての2029年度以降の長期の前提は、上記の表に示したとおり実質賃金上昇率が0.4%~1.6%、物価上昇率が0.5%~2.0%となっていて、少なくともここ20年ほどの実績と比べると”甘い”想定であるといえます(以下は前回の専門委員会の資料からの抜粋)。
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今回は、マクロ経済スライドのキャリーオーバーの効果を確認するために、物価・賃金の上昇率が一時的にマイナスになるような経済変動も前提に加えていますが、長期的にはどのケースでも物価・賃金の上昇率はプラスを想定しており、マクロ経済スライドが適用されずにキャリーオーバーがどんどん積み重なっていくようなケースは想定されていません。

したがって、日経の記事にあるような「マクロスライドのルールを見直して抑制を強化する改革を求める議論」には必ずしも結びつかないのではないかと考えます。