昨日に引き続き毎月勤労統計の不適切調査について書いていきます。今日は、追加給付が保険財政に与える影響という観点で考えてみます。


毎月勤労統計の不適切調査で追加給付の可能性があるのはどんな人 (会社) か?


厚生労働省の発表によると、今回の不適切調査に伴う追加給付の総額は概ね以下のとおりとなっています。
  • 雇用保険:310億円(事業主向けの助成金30億円を含む)
  • 労災保険:240億円(年金給付と休業補償があるが、ほとんどが前者)
  • 船員保険:16億円
これらの保険給付の一部については国庫負担(税財源)で賄われていますが、大部分は労使で負担する雇用保険料や企業が負担する労災保険料で賄われています。また、追加給付の実施に伴う事務費(経費)についても保険料を財源とする特別会計から支出する方向のようで、日経の記事によるとその金額は100億円以上になると予想されています。

これらの追加支出によって保険財政が悪化すると企業と会社員の保険料負担の増加にもつながりかねないわけですが、実際のところはどうなのか。すべての企業に関係する雇用保険と労災保険の財政状況について調べてみました。

雇用保険の財政

雇用保険の財政は大きく「失業等給付関係」と「雇用保険二事業関係」に分かれています。今回の不適切調査による雇用保険の追加給付のうち、事業主向け助成金の30億円は雇用保険二事業、それ以外の280億円は失業等給付に該当するものと考えられます。

昨年12月21日に開催された厚生労働省労働政策審議会の雇用保険部会資料によると、失業等給付関係の2018年度(見込)の収支は▲5,988億円、積立金残高は5兆1,577億円となっています。

景気悪化時の失業給付の増加に備えた積立金の残高は2015年度に過去最高の6.4兆円となり、それ以降は保険料の引き下げによって減少傾向にあるものの、将来試算では2023年度時点でなお3.5兆円と予想されています。

したがって、280億円(±国庫負担・事務費)の追加支出があっても積立金残高全体からすると影響は限定的であり、これが直接保険料の引き上げに結びつくことはないのではないかと考えます。

雇用保険二事業関係についても積立金に相当する安定資金残高は1兆円超で推移しており、追加支出に伴う影響は限定的といえます。

労災保険の財政

労災保険からの給付には療養補償や休業補償のための「短期給付」のほか、障害を負って働けなくなった人や遺族に対する「長期給付」(年金)があり、労災保険財政においては将来にわたって年金給付を賄えるように積立金を保有しています。

「平成28年度労働者災害補償保険事業年報」によると、2016年度の収入は1兆256億円、支出は9,934億円となっています。また、積立金は7兆8,938億円であり、将来の年金給付に必要な額として計算された責任準備金7兆6,542億円を2千億円以上上回っています。

2008年度以降の積立金は責任準備金を数百億円から2千億円強上回って安定的に推移しており、今回の240億円(±国庫負担・事務費)の追加支出は小さい金額とはいえないものの、保険料を引き上げなくても対応できる範囲の額であると考えられます。

ただ年金額の引上げによって責任準備金が増加することも考えられ、その場合は保険料の算定にも影響してくるかもしれません。

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ということで、雇用保険については今回の追加給付が直接保険料負担の増加につながることはないと考えますが、労災保険についてはもしかしたら影響が出るかもしれません。

なお、冒頭のリンク先にあるクミタテルのコラムに書いたとおり、雇用保険については1人当たりの追加給付額が約1,400円と少額であり、しかも自ら申し出る必要がある人が多数いるということで、実際には支給されず未払いのままとなってしまう額がかなり多くなりそうです。

100億円以上とされている事務費がどの範囲までを指しているのかはわかりませんが、関連する人件費などを含めると実際の支出は保険の追加給付そのものよりも関連する経費のほうが多くなってしまうかもしれないですね…。