先週、本年度のアクチュアリー試験が行われました。アクチュアリー試験は1次試験と2次試験からなり、2次試験は「アクチュアリーとしての実務を行う上で必要な専門的知識および問題解決能力を有するかどうかを判定することを目的としています」(アクチュアリー会Webサイトより)。
 
また、2次試験については、生保・損保・年金の各コースから1つを選択することになっていて、年金アクチュアリーと呼ばれる人たちは、基本的には年金コースを選択して合格した人のことをいいます。2次試験に合格し、一定の実務経験があること等の要件を満たすと、年金数理人になることができます(アクチュアリー試験とは別に実施される、年金数理人会の能力判定試験に合格して年金数理人になる道もある)。
 
そして、アクチュアリーや年金数理人の資格が業務上、必須となるのは、基本的には以下の2つです。
  1. 確定給付企業年金における数理書類の確認
  2. 退職給付会計における数理計算の確認
1点目は、具体的には、確定給付企業年金(DB)における掛金の計算や再計算の要否の判定、給付設計等が法令に定められた基準に則って適正に行われているかどうかの確認であり、2点目は、主に原則法による退職給付債務と勤務費用の計算が退職給付会計基準や数理実務基準に則って適正に行われているかどうかの確認となります。

ですので、その点からはこの2つに直接関係する範囲で「必要な専門的知識および問題解決能力」があればよいということになりますが、実際の2次試験(年金コース)の試験範囲はもっと広くて、以下のようになっています。

【年金1】公的年金制度および各種退職給付制度の設計・税務
【年金2】公的年金制度および各種退職給付制度の財政ならびに退職給付会計
(両方の科目に合格する必要がある)

実際、今年の試験問題(すでにこちらに公開されている)を見てみたところ、年金1の第Ⅰ部(専門的知識を問う問題)では、DBや退職給付会計の数理業務には直接関係しないものとして、以下のような問題が出ています。
  • 確定拠出年金制度に関する問題
  • DB以外の年金制度、退職金共済制度を含む各制度の税金に関する問題
  • 各種退職金共済制度の設計に関する問題
  • 公的年金制度に関する問題
これらに関しては、主に上記の1,2に関する業務に携わっている人にとっては(受験者には多分そういう人が多い)、実務上必ず必要な知識というわけではありません。

制度設計等のコンサルティング業務に携わっている年金アクチュアリーにとっても、今年の問題にあったような小規模企業共済の掛金の税制上の取り扱いや特定業種退職金共済の対象業種などについては、実務で使う場面はほぼ皆無だといえます。

DB制度が縮小傾向にあるなかで、業務範囲を広げていかないことには年金アクチュアリーの存在意義が失われていく可能性がある一方で、社会情勢の変化を業務範囲拡大の新たなチャンスととらえることもできるでしょう。ただ、その方向性が定まっていないことが、この試験問題にも表れているような気がします。

年金アクチュアリーにとって、これからどこを目指していくのか、1人1人が考えていかなければならない課題ではないでしょうか。