シニアの雇用にまつわる課題の1つに、定年後再雇用により嘱託社員となってすっかり肩の荷を下ろしてしまったシニア社員が、あらかじめ決められた範囲の仕事しかせず、周りの人がほかのことを頼んでも全くやろうとしないために不満がたまってくるという問題があります。

一般的には、これは「シニアの仕事に対するモチベーションをいかに保つか」という話になると思うのですが、一方ではこのような意見も聞かれます。
嘱託社員には相応の賃金しか払っていないのだから、そういう不満が出るくらいがちょうどいい。正社員と同じような仕事をされたら賃金に差をつけていることの合理的な説明ができなくなる。
「同一労働同一賃金」や「均等・均衡待遇」が求められるなか、会社としては職務を限定してそれに応じた賃金を設定していることを考えれば、この意見にも一理ありますね。初めてこうした意見を耳にしたときには「確かにそういう考え方もあるな」と思いました。

しかし、次のような観点からはやはり問題もあるように思います。1つはシニア社員の能力を有効に活用できていないという点です。

周囲が不満を持つのは「もっと貢献できるはずなのにやろうとしない」からであり、裏を返せば、能力に見合った職務と賃金を設定することによって、その能力を発揮してもらう余地があるということです。人手不足といわれるなかで、活用できる人材を活用しないのはもったいないことです。

ただ、能力に見合った職務と賃金を設定したとしても、定年前と比べると(責任の違いなどを考慮しても)賃金水準が下がってしまう可能性は十分にあるでしょう。多くの企業では賃金設定が「長期決済型」になっているからです(こちらを参照)。

したがって、定年後は「短期決済型」の賃金設定となることにより賃金水準が下がることを本人にも周囲にも対外的にも説明できるようにするか、賃金体系そのものを「短期決済型」に近づけるような見直しが必要になるでしょう。

もう1つの点は、周りが「賃金に見合った働きであれば何ら問題ない」ということが頭では分かっていても、釈然としない思いを抱いてしまうということです。

雇用に対する考え方として、「ジョブ型雇用」と「メンバーシップ型雇用」という2つの考え方があります。ジョブ型雇用は先に職務(ポスト)があって、そこに人材を当てはめるという考え方です。一方のメンバーシップ型雇用は人材が先にあって、その人に職務(ポスト)を当てはめるという考え方です。

日本ではメンバーシップ型雇用が多く見られ、各自がやるべき仕事の境界が明確には定められていません。そのような環境では、自分の守備範囲かどうかにかかわらず仕事に取り組む人が評価され、また、ほかの人が忙しそうにしていたら、手伝える範囲で手伝うのは当たり前という雰囲気になります。

一方、ジョブ型雇用においては、各自がやるべき仕事が明確に切り分けられ、他人の守備範囲には手を出しません。自分の仕事が終わったら、ほかの人の仕事が終わってなくても先に帰るのは当たり前です。

これらの考え方は、どちらが良くてどちらが悪いというものではありませんが、少なくとも同じ職場に2つの考え方を同居させるのは難しいでしょう。メンバーシップ型の職場に、ジョブ型の考え方で再雇用したシニア社員はなじめないということです。