今日は日本アクチュアリー会の年次大会があり、主に年金関係のセッションに参加してきました。その中に、「iDeCo(個人型確定拠出年金)を医療費の貯蓄制度としても利用できるようにする」という面白い提案というかアイデアがあったので、今回はそれについて書くことにします。

米国の医療貯蓄口座(HSA:Health Savings Account)

このアイデアのもととなったのは、米国のHSAという制度です。私も今日のセッションで初めて聞いたので、詳細を理解しているわけではありませんが、米国における健康(医療)保険制度の1つで、以下のような特徴を持っています。
  • HDHP(High-Deductible Health Plan)という医療保険への加入とセットで利用できる。
  • HDHPは免責額が高く設定されており、この金額までは医療費を自己負担する必要がある(従って保険料は安い)。
  • この自己負担分を賄うために、HSAという税制優遇付きの貯蓄口座が用意されている。
  • HSAへの拠出した額は一定額まで所得税の対象外となる。
  • 拠出した資金は運用することが可能で、運用益は非課税。
  • HSAからは一定の基準を満たした医療費を非課税で引き出すことが可能。
  • デビットカードにより医療費をHSAから直接支払うことも可能。
  • 年末に残った資金は翌年に繰り越し可能。
最後の点に関しては、医療費として使い切らずにずっと残るような場合にどうなるのかということについてはよく分かりませんでしたが、税制上の扱いとしてはiDeCoに似ているところがあります。

退職給付への医療・介護保険給付の取り込み

このような点を踏まえ、プレゼンでは「現在では基本的に60歳まで資金を引き出せないiDeCoについて、一定の基準を満たした医療費については非課税で引き出すことを認め、その分、拠出限度額を引き上げることで、老後に向けた資産形成と医療・介護に備えることのできる、より魅力ある制度として普及を図っていく」という提言がなされました。

こうした提言はこれまでにはない視点であり、非常に興味深いものだと思いました。

しかし一方では以下のような課題や疑問点もあげられます。
  • 既存の民間の医療・介護保険と比べて税制優遇が手厚くなるが、そのあたりのバランスをどう考えるのか。
  • 所得控除の拡大による税収減をどう手当てするのか(財務省をどう説得するのか)。
  • 60歳未満での医療・介護費の発生には偏りがあり(高額の医療・介護費が発生する可能性もあるが、その確率は低い)、備えの手段としては貯蓄よりも保険のほうが適しているのではないか。
  • 医療・介護費として引き出されることで、老後資金が失われるのではないか。
このような点を踏まえると、貯蓄性の口座を医療・介護費に充てるとするならば、基本的にはその発生確率が高まる60歳(あるいはそれ以上の年齢)以降の費用に充てるものとし、それ以前の引き出しには一定の制限を設けるのが妥当ではないかと思います。

また、拠出限度額の引き上げと引き換えに現行の退職所得控除を縮小し、別途、医療・介護費への充当、及び民間の医療・介護保険の購入費用への充当に限って非課税とする枠を設けることで、1,2点目の課題にも対応できるでしょう。

今後、ますます高齢化が進み、医療・介護費の増大が確実視されている中で、国としてカバーすべき医療・介護費の範囲を必要最低限のところに絞っていくという議論も当然出てくると思います。そうした時に、公的保険から外れる部分をカバーするための制度として、税制優遇付きの自助努力型制度をセットで用意することが必要になるのだと思います。