今月下旬、「退職給付制度の最新動向」というテーマで講演することになり、これからの退職給付制度に求められるものは何なのか、改めて考えてみました。

働き方改革、人生100年、人手不足といったワードが頻繁に聞かれる昨今、必要とされるのは「透明性」「柔軟性」そしてこのブログのタイトルにもある「信頼性」、この3つに集約されるのではないででしょうか。

透明性
人生100年時代においては、教育-仕事-引退という3ステージの人生設計は成り立たなくなり、自らマルチステージの人生を設計していく必要があります。退職金は次のステージに進むための、あるいは引退に向けての重要な資金となり、マネープランも自分で考えていくことが求められます。

したがって、自分の退職金の積み立てがどうなっているのか、いくら受け取ることができるのかがいつでも容易に把握できることが重要となります。

また、退職金は報酬の1つでありながら、多くの場合、従業員にはそうした認識はありません。1年働いたら退職金はいくら積み立てられるのか、年収と同じレベルで認識できるようになれば人材の確保にもつながりやすくなるでしょう。

柔軟性
働き方改革の中で求められているのは、働き方の多様化と、その働き方や仕事の内容、責任に見合った処遇を行うこと(均等待遇・均衡待遇)です。退職金についても、正社員かどうかといった身分によらず、従業員の多様なニーズにこたえられるような形で設計を考えていく必要があるでしょう。

また、マルチステージの人生を送るには、職業が変わっても引退後に向けて退職金の積み立てを継続できること、あるいは次のステージに進むために退職金を活用できることが重要です。

多様な人材を活用していくには、そうした柔軟性をもった制度を構築し、運営していくことが求められます。

信頼性
いくらいい制度を作ったとしても、約束(予定)どおり給付が支払われないようでは意味がありません。また、制度内容や積立状況が正しく理解されず、あてにならない制度だと思われてしまっても同じです(国の年金にはそうした面がありますね)。

個人の寿命が企業の寿命を上回る状況において信頼性を確保していくには、他制度への移行の可能性も含めて継続可能な制度設計であることに加え、加入者(従業員)への説明や情報開示を丁寧に行うことが重要になってきます。

---
全体的に退職給付制度が衰退傾向にある中で、様々な課題を抱えながらも確定拠出年金(DC)だけが導入企業数や加入者数を伸ばし続けているのは、企業の負担軽減という側面だけでなく、この3つの性質をある程度確保できているだからだと思います。

DCは個人ごとの口座で資産が管理され、自分の積立額や運用状況を常に把握することが可能です(透明性)。

給与等との選択制とすることが容易で、転職・離職の際にも資産の持ち運びと積み立ての継続が可能です(柔軟性)。

企業による投資教育は必ずしも十分とは言えませんが、少なくとも運営管理機関からは定期的な積立状況等についての通知があり、また、仮に勤め先の企業が破綻するようなことがあったとしても、これまでの積立額が減らされることはありません(信頼性)。

ただ、例えば会社を辞めて独立するような場合でも、60歳までは資金を引き出すことができない(柔軟性に欠ける)など、DCも万能なわけではありません。逆に言えば、DC以外の制度もこの3つの性質を持たせることで、社会のニーズに応えていくことができるでしょう。このところ存在感を増している総合型DB基金などは、その一例といえます。