20歳以上60歳未満のほぼすべて人のが加入できるようになった確定拠出年金ですが、その例外の1つに「農業者年金の被保険者」があります。法律上「個人型年金の加入者となることができる者」としては農業者年金の被保険者を除外する規定はありませんが、その一方で「農業者年金の被保険者となったときには個人型年金加入者の資格を喪失する」と規定されており、事実上、加入することはできません。

農業者年金というのは私もあまりなじみがないので、どういう制度なのか、少し調べてみました。

■加入対象は以下の3つの要件を満たす者。
 ①年間60日以上農業に従事
 ②国民年金の第1号被保険者(国民年金の保険料納付免除者を除く)
 ③60歳未満
※厚生年金適用事業所である農業法人の被保険者は加入できない。

■加入と脱退は任意。なお、農業者年金に加入する場合は国民年金の付加年金にも加入する必要がある。

■保険料は月額2万円~6.7万円の範囲で千円単位で任意に設定(一定の要件を満たすと国からの補助あり)。

■積立金の運用は制度全体で行う。基本方針において資産の70%(±10%)を国内債券で運用すると定めており、比較的安定的な運用を行っている。なお受給権者の年金資産は全額国内債券で運用。

■運用収益については、その一部を準備金に繰り入れたうえで、残りを被保険者の年金原資に分配する。掛金拠出額と運用収益からの分配額の累計が年金原資となる「確定拠出型」の年金制度。

■給付は65歳から終身年金(80歳までの保証期間付)で受け取り。最大60歳まで繰上げ可能。途中で脱退しても受け取りは60歳以降となる。

■年金額は、受給開始時の年金原資と終身年金現価率(現在の予定利率は0.35%)により計算され、受給開始後は変動しない。加入期間中の運用収益がマイナスとなり、65歳の受給開始時点で年金原資が掛金累計額を下回った場合は、準備金からマイナス分が補填される。

純粋な確定拠出年金は積立金が個人ごとに管理され、運用も各加入者の選択により個別に行われますが、農業者年金の場合は制度全体で積立金を運用し、その収益を配分する形をとっています。これは一種の「集団運用型確定拠出年金(コレクティブDC)」です。日本にこうした制度があったとは私も知りませんでした。

ちなみに、コレクティブDCというとオランダで実施されている制度がよく紹介されますが、オランダの制度は農業者年金の仕組みよりもリスク分担型企業年金に近いといえます(というか、正確にいえば、日本のリスク分担型企業年金はオランダのコレクティブDCを参考に作られた)。

加入者の増加が見込みにくい中でも持続可能性を確保し(仮に制度を廃止したり他制度へ統合されるようなことになっても加入者に不利益が出ないようにする)、かつ個人が直接運用責任を負うことがない(したがって投資教育もいらない)農業者年金の仕組みは、農業従事者を対象とした私的年金として理にかなっていると感じます。

農業者年金は2002年を境に旧制度と新制度に分かれており、2002年以降は現在の仕組みにより運営されているようです。国民年金基金も同様の改正を行っていれば今のような多額の積立不足を抱えずに済んだかもしれませんね…。

日本の企業年金制度でいえば、運用実績連動型のキャッシュバランスプランが類似した仕組みをもっていますが、掛金累計額そのものが年金原資となるわけではなく、またマイナス補填のための準備金の仕組みが用意されていない(マイナス分は事業主の追加掛金により補填)点が異なっており、法令上も企業会計上も「確定給付型」の制度に分類されています。