今月1日、企業年金連合会より2017年度(2018年3月末)決算が公表されました。過年度分も含め、こちらのページに掲載されています。

連合会は、厚生年金基金や確定給付企業年金を途中で(年金受給資格を得る前に)脱退した加入者や、解散した基金等の加入者の資産を預かり、65歳以降に終身年金として支給する「年金通算事業」を行っています。概要についてはこちらのページで紹介されています。

したがって、連合会の決算における最重要ポイントは「引き継いだ年金給付の支払いに備え、十分な積立金を確保できているかどうか」ということになるわけですが、2017年度決算の結果は以下のようになっています。
  • 責任準備金:10兆円4122億円
  • 純資産:11兆7651億円
  • 基本金:1兆3530億円
責任準備金とは「将来の年金給付のために現時点で必要と計算される積立額」、純資産とは「実際に積み立てられている額」、その差額が基本金であり、2018年3月末時点では責任準備金に対しておよそ1.4兆円(13%)の「余裕」を確保できているということになります。

なお、経理上はどこから引き継いだ年金給付なのかによって3つに区分されていますが、上記の金額はそれらを合算しています。

これまでの積立状況の推移を見ると、リーマンショックのあった2008年度決算では基本金が2兆8518億円のマイナス(率にして▲23.5%)まで落ち込みましたが、その後は順調に回復し、2017年度決算ではほぼリーマンショック前の水準にまで戻ってきています。
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となると、再びリーマンショックのような事態になれば、一気にマイナスに転落しそうにも思えますが、
  • 責任準備金の8割近くを占める代行部分(最低責任準備金)は国の厚生年金の運用利回りに連動する(GPIFの運用がマイナスになれば代行部分の債務もそれに連動して減少する)
  • 現在の連合会の資産構成はGPIFよりも株式の比率が低く、株価暴落時のマイナスは相対的に小さくなると考えられる
ことから、2007~08年度のような積立水準の急低下は起こらないと考えてよさそうです。

なお、先日NHKで連合会に年金の未払いがあることが報じられましたが、これについては負債の額に反映されていると考えられますので、請求手続きがとられて支払いが実行されても積立状況に影響することはないでしょう。

ということで、当面は良好な財政状況を維持できる可能性が高く、今のところ将来の年金給付に不安はない…と言いたいところですが、連合会の決算では年金数理人による確認の中で毎年指摘されている大きな課題があります。

それは、2013年の法改正により、連合会も代行部分を国に返還することが求められていることです。そうなると年金資産の大半を国に納めなければならなくなります。その分、責任準備金も減少するので、代行部分の返還自体は財政的には中立なのですが、問題は連合会の「事務コスト」として年金資産から毎年60億円程度が支払われていることにあります。

現状は、12兆円近くの年金資産を保有しているため、利回り換算して0.05%分程度の運用収益でこれを賄うことができますが、これが代行部分を返還して4兆円になると利回り換算して0.15%となり、財政上の重しとなります。また、資産規模が小さくなると、資産運用のコスト(年金資産に対する割合)も上昇する可能性があります。

そのほか、代行部分の返還には、記録整備の問題や、金融市場への影響(現金化せずに有価証券のままでの返還を受け入れるようにすることが必要)、厚生年金財政への影響も勘案する必要があり、なかなか難しい問題です。返還を1回で行うのではなく、何回かに分けることも必要かもしれません。

厚生労働省としても、法改正が行われた以上、連合会に対して代行部分の返還に向けた準備を進めるよう指導しなければならない立場にあるはずですが、実際どのようなやり取りが行われているのかは不明です。幸いなことに(?)返還の期限は法律には明記されておらず、具体的な動きはみられないのが現状であり、このままの状態がしばらく続く可能性もありそうです。