先日、厚生労働省の年金部会(第3回)の議事録がアップされていたので読んでみたのですが、出口委員(ライフネット生命創業者)の発言内容がなかなか興味深いものでした。

「私的年金等の奨励」に対して

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(事務局から説明のあった上記資料についてのコメント)
この2ページに書いてある3つの解決策の中で私的年金等というものは、実は金利や経済成長に大きく影響を受けるのです。これは72のルール(72÷金利≒元本が倍になる年数)を引くまでもないのですけれども、日本のようにほかの先進国と比べても超低金利で、しかも財政がぐちゃぐちゃですから、多分、金利を上げられないという前提の中では、極論すれば実は私的年金はつくれないのです。人間が知恵を絞っても、そんなに大したものはつくれないということが数学的にも挙証できるのです。
厚労省の企業年金・個人年金課をはじめ、私的年金の普及・拡大を図ろうとしている関係者に冷や水を浴びせるかような発言ですが、私の職業人生とほぼ重なるこの20年を振り返るとまさにそのとおりだという感じがします。

バブル期に8%超のピークを付けた長期金利はその後急低下し、私が就職した2000年以降は一度も2%を上回っていません。そしてこの間、企業年金は徐々に後退していきました。適格年金や厚生年金基金の(原則)廃止という制度上の要因もありますが、これも元をたどれば金利低下による運用難と財政の悪化にあるといえるでしょう。

しかしだからといって私的年金に力を入れなくてもいいということにはなりません。企業年金全体が縮小傾向にある中でも確定拠出年金は着実に拡大しています。公的年金の役割を代替するものにはなり得ないとしても、終身かつ物価スライド付きという公的年金の機能をフルに発揮するために、70~75歳くらいまでは勤労収入とあわせて公的年金に頼らずに生活費を確保できるようにするのが私的年金の重要な役割となります。

出口さんの発言は「国の年金は危ないですから、私的年金を押さえておいたほうがいいですよ」などというな風潮を生まないようにしなければならないという趣旨だと理解します。

日本の公的年金の2階建て構造に対して

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(上記の諸外国と公的年金制度との比較についてのコメント)
それから、Uberのような例が出ましたけれども、これはあるアメリカ人と議論をしていたら、日本の2階建て年金は、実はこれからの世代にうまくアジャストできるのではないか。つまり、被用者と自営業者という枠組みを考えたときに、日本は既に受け皿があるので、先に進んでいるのではないかという意見を聞いて、そういう見方もあるのだなと思いましたけれども、そこは自信を持っていいところかもしれないと思いました。
日本の場合、無収入の人も含めて全員が国民年金(基礎年金)の対象となり、被用者(会社員・公務員)についてはその上に厚生年金が乗る二層構造となっていますが、こうした設計になっている国は他にはありません。

今後、被用者と自営業者の中間的な働き方が増えていった場合、こうした人に対して年金制度をどう適用していくかということは日本でも海外でも課題になることが予想されるわけですが、日本の場合は少なくとも基礎年金という共通の基盤があることで、そこから漏れるようなことは防ぐことができます。

ただ基礎年金は(自営業者の場合)保険料は収入の額にかかわらず一定、給付の額も一定(全期間保険料を納めた場合で月6.5万円)という設計であり、これをこのままにしておいていいのかという問題は出てきそうな気がします。

マクロ経済スライドによる基礎年金の水準低下に対して

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(マクロ経済スライドの仕組みにより、基礎年金の最終的な水準が当初の見込みより低下していることへのコメント)
マクロ経済スライドの話になると、必ず基礎年金で低所得の高齢者が問題になるという議論が出るのですけれども、これは問題の設定の仕方が間違っている気がしていて、本当に困っている人は誰かといえば、多分、パートやアルバイト等で、本来、被用者年金でカバーすべき人が国民年金に追いやられているからの問題であって、これはマクロ経済スライドの問題ではないということを私はもう一回問い直さなければいけないと思うのです。
これは、このままだと低所得の高齢者が増えてしまうという問題の要因をマクロ経済スライドに求めるのは間違いで、非正規雇用の人(その中でも配偶者が会社員である第3号被保険者ではなく、自ら生計を立てている第1号被保険者の人)が厚生年金から外れてしまっていることが問題であり、被用者全員を厚生年金の対象とすることで解決すべきだという主張ですね。

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確かにそのとおりであり、マクロ経済スライドについてはできるだけ早期に財政均衡を図れるように確実に適用していくのが本筋だと思います。ただ、厚生年金勘定に比べて著しく規模が小さくなっている国民年金勘定だけを見て基礎年金のスライド調整年度を決める仕組みが妥当かどうかについては検討の必要があるのではないかと考えます。