「リタイヤ後に向けた積立手段の比較」、最後の4回目はリターンとリスクの比較です。

<前回までの記事はこちら>
①どんな制度や商品があるか?
②積み立てや引き出しに制約はあるか?
③税金がおトクなのはどれか?

今回は結論の図から見ていきましょう。
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図が重なってちょっと見づらいですが、リターン・リスクの小さいほうから見ていくと、定期預金や財形年金貯蓄は基本的に「預金」ですから、元本は銀行等が保証しています。つまりリスクは非常に小さいです。その代わりに、昨今のような低金利の状況ではほとんど利息は付かないのでリターンも非常に小さいです。

資産運用によってお金を殖やす手段ではなく、自動的、定期的に積み立てることで確実に貯めていくための手段だといえます。

次に、個人年金保険についても途中で解約しない限りは保険会社が支払いを保証していますから、リスクは小さいといえます(途中解約時には元本割れの可能性あり)。しかし、預金同様にリターンも低くなります。高いリターンを獲得しようと思えば元本保証は諦めざるを得ません。

一方で、預金や保険なら100%安全かというとそういうことではなく、銀行や保険会社が破綻した場合には元本割れの危険が出てきます。ただ、セーフティネットの仕組みにより、預金については1人1金融機関につき元本1000万円+利息まで、保険については責任準備金等(注)の90%までが、万一の場合にも保護されるようになっています。

注:保険会社がその契約に対してその時点で本来確保しておくべき金額

なお、社内預金については会社への貸付となるため、セーフティネットの仕組みの対象外となります。社内預金は銀行等の定期預金よりも一般に高い利率が設定されていますが、万が一会社が倒産した場合には、預金(の一部)が戻ってこない可能性があります。

もう1つ、「リタイア後に向けた」という観点でいうと、避けたいのは元本割れすることではなく、資産の実質価値が下がってしまうことです。リタイアするまでの数十年間で見たときに、運用収益が物価の上昇に負けてしまうと、表面上は元本割れしていなくても実質価値は下がってしまう点に注意しなければなりません。

次に、iDeCoとつみたてNISAについてはリターン・リスクの領域に幅があります。これらは商品そのものではなくて制度の枠組みであり、その中で様々な商品を選択できるからです。

特にiDeCoに関しては(具体的な商品ラインナップは各金融機関が提供するプランによりますが)、定期預金、保険、投資信託と幅広い種類の中から商品を選択し、組み合わせることができるため、どのような選択をするかによってリターン・リスクは大きく変わります。

投資信託は様々な銘柄の株式や債券に分散投資する商品であり、元本の保証はないものの、預金や保険とは異なり高いリターンを得られる可能性があります。一般に、「お金の貸し借り」である債券投資よりも、「事業利益の配分」である株式投資のほうがリターン・リスクは高くなります。

つみたてNISAについてもリターン・リスクは選択する商品によって変化しますが、対象商品が株式を主な投資対象とする投資信託に絞られているため、比較的リスクの高いところに位置することとなります。

そして最もハイリスク・ハイリターンなのは従業員持株会です。自社株を購入するわけなので、投資信託のように投資先は分散していません。将来、自社の業績が大きく伸びれば賃金として受け取るボーナスとともに株価も上がって非常に大きなリターンを得られますが、逆に業績が低迷すれば大きな損失を被ることになります。

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ということで、4回にわたって6つの積立手段を比較してみましたが、前回までの引き出しの制約や税金の観点も含めて総合的に考えると、やはり最強の積立手段はiDeCoでしょう。引き出しの制約も、見方を変えれば60歳まで確実に資金を確保できる仕組みだといえます。

また、制約が強いといっても積み立てについては途中で中断することも可能であり、この点に関しては個人年金保険よりも柔軟性があります。

一方、長期の積み立てを前提としつつも年齢に関係なく引き出せるようにしておきたい場合には、つみたてNISAが適しているでしょう。引き出しの制約がないにもかかわらず運用益に対する税制優遇があり、リターン・リスクの選択にも幅があります。

というわけで、リタイヤ後に向けた資金の積み立ては、この2つを中心に考えるのがやはり王道といえます。ちなみに、我が家では夫婦ともこの2つは限度額まで積み立てています。