来年(2019年)の公的年金の財政検証に向けた社会保障審議会年金部会での議論が今年度から始まっていますが、6月22日に開催された第2回の議事録がようやく掲載されたので(こちら)、ざっと読んでみました。

当日は、まず事務局(厚労省)から、公的年金制度における直近の被保険者(加入者)や収支等の状況について、前回の2014年財政検証で想定された前提条件との比較を交えながらの説明があり、あわせて各種経済指標が年金財政に与える影響についても説明がありました。
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年金やその他の社会保障の財政を長期的な観点で考えるとき、名目(実額)ベースで○円だとか○%とかいう数字にとらわれると本質を見誤ります。お金(円)の価値は変動していくからです。

これを表しているのが上の図であり、保険料収入や運用収入、年金給付が賃金水準に連動している限り、財政の安定性は確保されます。前回財政検証の2014年からの推移で見ると、実質運用利回り(名目運用利回り-名目賃金上昇率)の実績が想定を大きく上回ったことから、積立金の額も想定よりも大きくなっています。

ただ長期的に見ると年金給付の9割は保険料収入と税金で賄われ、積立金から得られる財源は1割程度なので、多少運用収益が増減しても年金財政全体に与える影響は限られます。

この点については、今後100年の総収入現価+積立金と総給付現価とでBSを作ってもらえるとよく分かるのではないかと思います(その意味するところを正しく理解してもらうのはなかなか難しいとは思いますが…)。

さて、事務局からの説明の後は各委員から発言タイムということで、主に以下のような意見があがっていました。
  1. オプション試算の実施は今回も必須
  2. 国民年金(基礎年金)の所得代替率低下に危機感を持つべき
  3. 公的年金の正しい理解につながる情報提供や教育の在り方を議論すべき
  4. 被用者全体への厚生年金拡大
意見1のオプション試算というのは「もし制度をこう変えたら将来の姿はどうなるか」という試算であり、前回の財政検証では「①マクロ経済スライドのフル発動」「②厚生年金の対象となる被用者の拡大」「③保険料拠出期間の65歳までの延長」の3つが実施されています。なお、①②については部分的にではありますが、既に制度改正に反映されています。

意見4は試算②そのものですし、意見2に対する有効な対策が③となりますので、少なくともこの2つの試算は実施されることとなるでしょう。あとは受給開始年齢の基準(現在は65歳)を引き上げたらどうなるか、というのも重要な観点になると思います。

オプション試算は公的年金制度を改善させる方策(選択肢)とその効果を確認するための貴重な情報となります。その点も含めて、意見3にあげられた正しい理解につながるような情報提供や報道を期待したいところですね。