以前に「定年再雇用時の賃金低下をめぐる裁判」の記事で紹介した長澤運輸事件の最高裁判決が6月1日に出ました。結果は実質的に従業員側の敗訴といえる内容でした。注目度の高い事件だったためか、判決文はこちらに公開されています。

判決文では、定年後再雇用の賃金引き下げについて、
 事業主は,高年齢者雇用安定法により,60歳を超えた高年齢者の雇用確保措置を義務付けられており,定年退職した高年齢者の継続雇用に伴う賃金コストの無制限な増大を回避する必要があること等を考慮すると,定年退職後の継続雇用における賃金を定年退職時より引き下げること自体が不合理であるとはいえない
 また,定年退職後の継続雇用において職務内容やその変更の範囲等が変わらないまま相当程度賃金を引き下げることは広く行われており,被上告人が嘱託乗務員について正社員との賃金の差額を縮める努力をしたこと等からすれば,上告人らの賃金が定年退職前より2割前後減額されたことをもって直ちに不合理であるとはいえず,嘱託乗務員と正社員との賃金に関する労働条件の相違が労働契約法20条に違反するということはできない。
としており、職務が変わらなくても一定の合理性を認めるものとなっています。

さらに、その根拠として、
 定年制は,使用者が,その雇用する労働者の長期雇用や年功的処遇を前提としながら,人事の刷新等により組織運営の適正化を図るとともに,賃金コストを一定限度に抑制するための制度ということができるところ,定年制の下における無期契約労働者の賃金体系は,当該労働者を定年退職するまで長期間雇用することを前提に定められたものであることが少なくないと解される。これに対し,使用者が定年退職者を有期労働契約により再雇用する場合,当該者を長期間雇用することは通常予定されていない。また,定年退職後に再雇用される有期契約労働者は,定年退職するまでの間,無期契約労働者として賃金の支給を受けてきた者であり,一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることも予定されている。そして,このような事情は,定年退職後に再雇用される有期契約労働者の賃金体系の在り方を検討するに当たって,その基礎になるものであるということができる。
 そうすると,有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは,当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において,労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たると解するのが相当である。
としており、定年前の長期雇用を前提とした賃金体系が年功序列的であることを踏まえた判断であることがわかります。

ただ一方で、
有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。
とし、具体的には、
  • 能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違→不合理でない
  • 精勤手当を支給しないという労働条件の相違→不合理
  • 住宅手当及び家族手当を支給しないという労働条件の相違→不合理でない
  • 役付手当を支給しないという労働条件の相違→不合理でない
  • 時間外手当の計算の基礎に精勤手当が含まれないという労働条件の相違→不合理
  • 賞与を支給しないという労働条件の相違→不合理でない
と、1つ1つの項目の内容に照らして検討を行い、結果として、従業員の皆勤という事実に基づいて支給される精勤手当についてのみ、定年前の従業員と同じ条件で支給すべきとの判断が示されました。

また、同じく6月1日に判決が出されたハマキョウレックス事件(判決文はこちらに掲載)でも、正社員には支給されるが契約社員には支給されない(または支給額が小さい)各種手当について、それらの内容を勘案したうえで、「住居手当の不支給については不合理でない」、「皆勤手当、無事故手当、作業手当、給食手当の不支給及び通勤手当の格差については不合理である」との判断が示されています。

定年後再雇用の仕組みをとっている企業において、定年前後で職務の内容は変わらないのに給与は下がるというケースは決して珍しいものではなく、そうした企業にとっては胸をなでおろす判決であったかもしれません。

しかしながら、今回の判決でも賃金水準の低下が許容されたのは賃金体系の違いや手当の内容に基づいて不合理でないと説明できる範囲に限られています。自社における賃金の格差が果たして説明可能なものなのかを確認し、そうでなければ見直しを行うことが必要でしょう。