以前こちらの記事に書いたように、内閣府に置かれている規制改革推進会議には「規制改革ホットライン」という、個人や企業から規制や制度の改善について提案を受け付ける仕組みがあり、企業年金に関する規制緩和の要望もいくつか寄せられています。

これらに対しては一旦厚生労働省から回答がなされており、「対応不可」とされているものも多くあるのですが、それで終わりということではなかったようで、確定拠出年金(DC)に関する要望については規制改革推進会議の専門チーム会合というところで取り上げられ、民間委員による厚生労働省へのヒアリングが行われています。

5月11日に開催された会合の議事録がこちらのページにアップされたので(「確定拠出年金」でページ内検索すると見つかります)、どんなやり取りが交わされたのか見てみました。

まず、論点として提示されたのは次の4つ。
  1. 60歳以上への加入者範囲の拡大
  2. 脱退一時金の支給要件緩和
  3. 営業職員の兼務規制緩和
  4. 投資一任サービスの導入
このうち、3の兼務規制緩和についてはこちらの記事に書いたとおりすでにパブリックコメントが出ており、来年7月1日よりDC専任でない営業職員による加入者への運用商品の説明等が解禁される予定となっています。

また、1の加入者範囲の拡大については「少なくとも検討に入ってから結論を得るまで数年は時間がかかる」としながらも、2017年に施行された改正法において5年の検討規定があることを踏まえ、厚生労働省の青山企業年金・個人年金課長より「検討したい」という回答がなされています。

これに対して、2の脱退一時金の支給要件緩和と4の投資一任サービス導入については議論がかみ合っておらず、両者の主張は平行線をたどっています。こう言っては何ですが、読んでてちょっと笑えてきました。

DCの中途引き出しは認めるべきか

60歳到達前の脱退一時金の支給については、現状、非常に限定されたケースでしか認められておらず、これがDCの導入や加入の足かせになっている面があります。

これを緩和して税制優遇を全部差し引く形で中途脱退を認めることを検討するべきではないか、そうした時に加入者の拡大と中途脱退の増加の両方を勘案して最終的に老後資金の拡充が図れるかどうかで判断すべきではないか、というのが委員側の主張です。

一方厚労省側は、引き出してよいとなればそれはもはや年金制度ではなく、制度の成り立ちを根本から覆すものであって、検討するようなことではないという主張です。そもそもの発想が食い違っているので議論は同じことの繰り返しになっています。

役人というのは基本的に法律に従って制度を運用していくのが仕事ですから、法律の根幹にかかわる部分を「規制緩和」として役所に求めるのはやや筋違いであって、立法府で議論すべきことでは…?というのが個人的な感想です。

で、中途引き出しを認めるかどうかという点については、年金のもともとの意義は「勤労収入が途絶えたときの所得を確保するため」にあり、それを一定の年齢で区切るというはだんだん世の中の流れに合わなくなっていくのではないかというのが私の考えです。

人生100年時代ともなればキャリアの転換を2回、3回と図ることが必要となり、途中で本格的な学び直しの期間が入ってくるかもしれません。私的年金はそうした多様なニーズにも応えられるようにする一方で、公的年金は私的年金ではカバーが難しい長生きリスクにその機能を集中させていくというように、役割を分けて考えるのがふさわしいのではないでしょうか。

さしあたっては、DCが一時金ではなく文字どおり「年金」として受給されるように、一時金受取に対する税制優遇の見直しあたりから考えていくことが妥当ではないかと思います。

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投資一任サービスの導入は認めるべきか

投資一任サービスの導入についても、加入者にとっての選択肢の1つとして加えることに何の問題があるのか、自分で商品を選べない人への対応という意味で(先般の法改正で導入された)指定運用方法と何が違うのかという委員と、あくまで本人の責任で運用商品を選択するのがDCであるという厚労省で議論はかみ合っていません。

そもそも委員側の主張する「投資一任サービス」というのが、運営管理機関の提示する商品ラインナップの中での商品の選択を一任するものなのか、それとも運管のラインナップにかかわらず一任業者の判断により他の金融商品も選べるようにするものなのかははっきりしません。

もし後者だとすると、これは運管による商品ラインナップ選定という今の枠組みから壊すものであり、商品選定の考え方を根本的に変えるものとなります。

この場合、例えばつみたてNISAのように、金融機関や運用会社からの申請によりDC全体で選択可能な商品の一覧を国で定め、その中で運管が各プランで取り扱う個別商品と投資一任サービスをラインナップするという枠組みが考えられます。投資一任サービスでは、国が定めた一覧の中から商品を選択し、運用することになります。

一方、前者のケースだとあくまで運管が選定したラインナップの中から選ぶということなので、現状でも投資助言を行う業者と別途契約を結べば商品ごとの割合指定、スイッチングの時期など、運用の個別具体的な内容まで助言を受けることは自体は可能なはずです。

したがって、投資一任との違いは割合指定やスイッチングの注文を出すところまで業者に任せるかどうかというところになります。

仮に投資一任サービスが選択できるようになったとして、それでDCの普及が進んだり元本確保型から投資信託へのシフトが進むかというと、それはどうなんだろうという気がします。投資一任サービスの良しあしを判断するのは、ある意味自分で商品を選ぶよりも難しいかもしれません。

現在は事業主や運管が個別の商品を推奨することは禁止されていますが、まずは第三者による個別具体的な投資助言を気軽に受けられるような枠組みを整え、その効果を見極めたうえで投資一任にまで踏み込むかどうかを検討するのが妥当な線ではではないでしょうか。