先日の記事でも触れていますが、今月(2018年5月)からりそな銀行が新たなiDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)のプランの提供を始めています。「りそなつみたてiDeCo」というプラン名がついていますが「つみたてiDeCo」という名称の制度はなく、あくまでiDeCoの1つのプランとして名付けられた固有名詞です。

一方「NISA」と「つみたてNISA」はどちらも制度の名称で、NISAは「少額投資非課税制度」の愛称、つみたてNISAは「非課税累積投資契約に係る少額投資非課税制度」の愛称となっています。最初にできたNISAに対して、より少額の累積(積立)投資に限定(投資対象も限定)する代わりに非課税期間を延ばしたのがつみたてNISAです。

これに対してiDeCoは最初から積立投資ですから、「つみたてiDeCo」というのはなんというか「卵入りの親子丼」みたいなネーミングのように思えてしまいます…。ちょっと紛らわしいので注意しましょう。

で、今日の記事で書こうと思ったのはそんなことではなくて、りそな銀行がなぜそんなネーミングをつけてまで新しいiDeCoのプランを打ち出したのかということです。ちなみに従来のプランは「りそな個人型プラン」といういたって普通な名称です。

以下は、新旧プランの商品ラインナップを比較した表です。
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商品数の合計は33本から26本に減らしつつも、商品カテゴリ内での重複を排除して、従来なかったヘッジ付き外債等のカテゴリにも商品をラインナップしています。同時に、同一カテゴリの運用商品についても入れ替えを行い、全体として信託報酬の引き下げを実現しています。

結果として、旧プランから引き継いだ商品は6本(投資信託に限れば4本)に過ぎず、商品ラインナップが一新されました。新プランで指定運用方法に設定されたターゲットイヤー型の投資信託も新たに追加された商品です。これが新プランを投入した目的であると考えられます。

法令上は、旧プランのまま商品の見直し(入れ替え)を行うことも可能ですが、1つの商品を完全に除外するには当該商品で運用している加入者等の全員の同意が必要となるため、現実的ではありません。

2/3以上の同意があればそれ以降の掛金での購入(及びスイッチングでの購入)対象からは除外され、政令で定められた商品数の上限にもカウントされなくなりますが、2018年4月以前の掛金に係る資産(→運用を継続)と2018年5月以降の掛金に係る資産(→売却)で取り扱いが異なるため、対応や管理が煩雑となります。

したがって、商品ラインナップを一新したい場合には、今回のりそな銀行の対応のように新たなプランを立ち上げるのが手っ取り早い方法となリます。りそな銀行では旧プランから新プランへの移行は受け付けていますが、逆の変更は取り扱っておらず、今後は基本的に新プランのほうに移行させていく方針のようです。

そして同様の手法はiDeCo(個人型)だけでなく企業型でも使える可能性があると考えています。商品ラインナップを一新した新たな企業型のプラン(規約)を別に作り、新規の従業員は新たな規約に加入することとし、既存の従業員も希望者は新しい規約に加入できるようにするのです(確定拠出年金法第13条では、複数の企業型年金に加入する資格を有する者はいずれかを選択することとされている)。

ただこの手法にも(法令上の問題がなかったとしても)ネックになる点があります。それは、企業が2つの規約を運営するコストと事務を負担しなければならない点です。

新規約の立ち上げと同時に旧規約を(労使合意の上で)終了してしまえば(あるいは規約自体は存続させたまま運営管理機関の変更により商品の入れ替えを実施すれば)、この負担を回避することができますが、その場合はすべての加入者と運用指図者について一旦すべての資産を現金化し、新規約の商品を購入しなおす手続きが必要となります(上記のりそな銀行の例では、新プランへの移行手続きには1.5〜2.5ヶ月かかるとされています)。

特に受け取り時期の近い加入者や、すでに年金を受け取り始めている運用指図者にとっては、移行期間中の相場の変動により想定外の不利益を被る可能性もありますから、これを回避するためには一定期間、新旧の規約を並行させる必要があるでしょう。

確定拠出年金法の改正により、企業型では運用商品のモニタリングを含む運営管理機関の評価が努力義務となりましたが、これを実際に制度の改善に結びつけるためには、運用商品の入れ替えやプランの移行をより円滑に実施できるような法令上、システム上の対応が必要ではないかと思います。