このところ、健康保険組合の解散に関する記事をよく見かけます。
なぜ健保組合の解散が相次いでいるのか、健保組合が解散するとどうなるのか、そもそも健康保険はどういう仕組みで成り立っているのか、まとめてみることにしました。

世代によって分かれている公的医療保険

健康保険(正式には公的医療保険)はいくつかの制度に分かれており、それぞれ加入対象が異なります。それを大雑把に示したのが下の図です(公務員を対象とした共済組合等もあるが省略)。
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現役世代のうち会社員は、勤め先の企業が健保組合を設立している場合(または複数企業により共同運営される健康保険組合に入っている場合)は扶養親族も含めてその健康保険組合の加入者となります。

健保組合は"独立採算"で運営されることから設立には一定以上の規模が必要とされ、このため健保組合の加入者は主に大企業の会社員となっています。ただ、(例えば同業種の)中小企業が集まって健保組合を設立することも可能であり、実際当社もTAAけんぽという健保組合に入っています。

一方で、勤め先企業に健康保険組合がない場合には、扶養親族も含めて全国健康保険協会が運営する協会けんぽの加入者となります。以前は社会保険庁により「政府管掌健康保険」として運営されていましたが、社会保険庁の解体に伴い今の形になりました。

どちらに加入していても、会社を退職すると都道府県単位で運営される国民健康保険に移ることになります(自営業者は現役世代も国保に加入)。なお、国保はこれまで市町村単位で運営されてきましたが、規模を拡大して財政を安定化させるため、この2018年4月より都道府県に移管されることとなりました。

そして75歳になると後期高齢者医療制度というまた別の枠組みに移行することとなります。こちらは以前より都道府県単位で運営されています。

メリットが失われつつある健保組合

医療保険制度を成り立たせるには、当然のことながら保険料収入と給付の支払いをバランスさせる必要がありますが、保険料は所得に応じて徴収され、給付の支払いは医者にかかるほど増えますから、必然的に現役世代の制度には財源の余裕が生まれ、リタイア世代の制度は財源不足となります。

このため、健保組合や協会けんぽからは「拠出金」という形で国保や高齢者医療に財源が移譲されており、さらに公費(国や地方の税金)も投入されています。

また、同じ現役世代の会社員で構成される健保組合と協会けんぽでも、財政状況はかなり異なっています。以下は、それぞれの2016年度決算見込み(健保組合は全組合を集計)より、被保険者1人当たりの収支を示したものです。
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まず、保険料収入については組合健保のほうが10万円以上多くなっています。両者とも健康保険料は給与や賞与(標準報酬)に一定率を掛けて算出しますが、率は平均的に見ると組合健保のほうが低くなっています。にもかかわらず保険料収入が多いのは、給与水準に大きな差があるからです。

平均標準報酬月額は、協会けんぽが28.3万円であるのに対して、組合健保は37.1万円です。給与水準の高い大企業は自前で健康保険組合を設立することで料率を低く抑え、それによって会社と従業員の社会保険料負担を節約してきたのです。

しかし、支出のほうを見ると組合健保はより多くの拠出金負担を強いられ、逆に協会けんぽのほうには国庫補助、すなわち税金が投入されていることにより、トータルでは両者の財政状況に差がなくなってきています。

人口構成で見ると、リタイア世代の割合は今後も増え続けていきますから、現役世代の拠出金負担は増えることはあっても減ることはないでしょう。そうすると、組合健保は保険料率を引き上げざるを得なくなり、自前で組合を持つことのメリットがデメリットに変わってしまいます。

協会けんぽの保険料率は都道府県により異なりますが、平均で10%となっています。これは、健保組合にとっての「解散ライン」でもあります。2016年度の健保組合の平均保険料率は9.11%と10%を若干下回っていますが、10%以上となっている組合が全体の21.7%を占めており、これらの組合は「解散予備軍」といってよいかもしれません。

もしすべての健保組合が解散したら

仮に、今あるすべての健保組合が解散したらどうなるでしょうか?健保組合に加入していた会社員は全員協会けんぽに移ることになるため、単純に考えれば協会けんぽの被保険者の平均給与は上がり、保険料率を10%から下げても収支はバランスしそうです。

しかし健保組合からの拠出金がなくなりますから、その分は協会けんぽが負担する必要が出てきます。将来予想される負担増も考慮すると、結局保険料率を下げることは難しいでしょう。

年金の世界でも、企業が国の厚生年金を一部取り込んで”独立採算”で運営する厚生年金基金が大企業を中心に広がりましたが、人員構成の高齢化と資産運用状況の悪化が重なって運営の継続が困難になり、最終的には法律改正により制度そのものが実質的に廃止となりました。

医療保険は年金保険とは財政の仕組みが大きく異なるので一緒にしてしまうのは適切ではないかもしれませんが、人口の高齢化が進む中で企業が独自に制度を運営するメリットを維持していくのは難しく、最終的には統一した制度で運営していく方向になっていくのではと考えます。