最近、定年再雇用時の賃金低下をめぐる訴訟のニュースをちらほら見かけるようになりました。といっても私の知る限りでは2件だけですが、そのうち1件は最高裁まで行って会社側が慰謝料を支払う判決が確定、もう1件も最高裁まで行って6月1日に判決が出ることになっています。

毎日新聞の報道によると、すでに判決が確定したほうは以下のような経過となっています。
  • 食品会社に正社員として勤めていた女性が定年を迎えた際、再雇用の条件として会社からパート勤務で賃金75%減の提示を受ける。
  • 女性はフルタイムの勤務を希望するも再雇用契約は合意に至らず退職。
  • 女性は損害賠償と従業員としての地位確認を求め提訴。
  • 1審(福岡地裁小倉支部)は「賃金の引き下げは業務が減少したためで合理性がある」とする会社側の主張を支持。
  • これに対して2審(福岡高裁)は「定年の前後で継続性・連続性があることが原則」との解釈を示し、会社側の提示は「継続雇用制度の導入の趣旨に反し、違法性がある」と判断。会社側に100万円の慰謝料支払いを命じる。
  • 但し従業員としての地位確認については再雇用に至っていないことから認めず。
  • 双方が上告したが最高裁が不受理を決定し、2審の判決が確定。
見出しの「75%減」のインパクトが強いですが、同じ仕事内容で75%減の賃金が提示されたわけではなく、パート勤務への変更による勤務時間の減少などとセットで金額が提示されたようです。

確定した判決では定年の前後で継続性・連続性があることを求めており、仮に再雇用後の賃金が勤務時間や職務に見合ったものであっても、それが定年前の処遇と大きくかけ離れている場合は違法だということなのでしょう。

もう1件のほうは、こちらも毎日新聞の報道によると以下のような経過となっています。
  • 長澤運輸のドライバーとして勤務していた社員が定年後再雇用により契約社員となり、賃金が減少。
  • しかし仕事内容は変わっておらず、正社員との賃金差額の支払いを求めて会社を提訴。
  • 1審(東京地裁)は「仕事内容が同じなのに賃金格差を設けることは、特段の事情がない限り不合理」という判断を示し、会社側に415万円の支払いを命じる。
  • これに対して2審(東京高裁)では、減額幅は2割程度で同規模企業の平均より小さいとした上で「定年後の賃下げは広く行われ、社会的に容認されている」として地裁判決を取り消し。
  • 従業員側は上告し、最高裁での弁論が開かれ、結審。6月1日に判決が言い渡されることに。
食品会社の裁判と異なり、こちらは仕事内容が変わっていないということで、正社員と契約社員の処遇の違いを定年で正当化できるかということがポイントになりそうです。

2件目についてはどういう結果になるのかまだわかりませんが、もし会社側に非常に厳しい内容が示された場合、定年後再雇用の処遇は改善に向かう可能性がある一方で、定年前の正社員に対する評価はよりシビアになると考えられます。今の評価が適正であるなら、そもそも定年を境に賃金を大きく下げる必要はないでしょうから。

<2018/6/3追記>
最高裁判決が出ました。詳しくはこちら