厚生労働省では、昨年(2017年)11月より、確定給付企業年金制度(DB)でのリスク対応掛金とリスク分担型企業年金の導入状況について、毎月Webサイトで情報を更新しており、すでに2018年4月1日時点の件数が公表されています(こちらのページの下の方)。

リスク対応掛金についてはこの4月より拠出を始めたところが多かったようで、導入件数は61件と前月の倍ほどになりました。今後、財政再計算や特別掛金の償却終了のタイミングで導入を検討する企業年金も出てくると思いますので、資産運用が大幅に悪化しなければ、数百件程度に広がる可能性は十分にありそうです(なお、DBの総件数は約13,000件です)。

一方、リスク分担型企業年金については4件と前月から1件増えました。南都銀行が新たに加わったようですね。

南都銀行のリリース(こちら)によると、従来のDBの一部を確定拠出年金(DC)に移行し、残りをリスク分担型に移したとのことです。「終身年金は維持しつつ」とありますので、将来の死亡率の低下(長寿化)を何らかの形で計算に反映し、掛金に上乗せしているものと考えられます。

制度改定の目的には「退職給付債務の変動リスクを軽減」との記載があり、経営サイドには多少コストが増えても退職給付債務を減らしたおきたいという考えがあるのでしょう(リスク分担型企業年金は、会計上は基本的に退職給付債務の計上が不要な「確定拠出型制度」に分類される)。

これまでの日経の報道によると、残り3件のうち2つは小泉産業グループと新日本空調であり、さらにこの6月には富士通がやはり従来のDB(キャッシュバランスプラン)の一部を移行する形でリスク分担型を導入する予定となっています。

ちなみに、富士通は既にDCを導入していることから、従来型DB、リスク分担型企業年金、DCの3種類の企業年金がそろうことになります。さらに退職時の年齢によっては退職給付の一部は会社から支給されるとあり(有価証券報告書より)、なんとも複雑そうな構成です。

今後、後に続く企業も出てきそうではありますが、現行のルールでは(給付設計にもよりますが)将来発生しうる損失の想定額である「財政悪化リスク相当額」が相当大きく計算されるため、掛金を積み増しても給付の増額にはつながりにくい仕組みになっています。導入件数は増えてもせいぜい2桁どまりではないでしょうか。

企業年金の普及・拡大策の1つとして導入されたリスク分担型企業年金ですが、実質的には大企業にとっての企業年金制度を廃止・縮小を回避するための1つの受け皿という意味合いが強く感じられます。企業年金の実施率が低下している中小企業に対しては、iDeCo(個人型確定拠出年金)の事業主によるマッチング拠出のような、個人の積み立てに対する支援策がメインになっていくかもしれません。