退職給付会計に関して時々聞かれる質問の1つに、出向や転籍の場合の処理があります。元の会社に籍が残っている出向のケースや、転籍時には退職金を支給せずに、転籍後の会社を退職したときに転籍前後の期間を通算した退職金を支給するケースにおいて、出向(転籍)元と先でどのように会計処理を行うかが問題となります。

出向時の処理

出向の場合、費用等の分担は最終的には両社の出向契約の内容により決まることとなりますが、出向期間中の退職給付費用のうち勤務費用を出向先が負担することとし、毎期その金額を出向元に支払うというのが1つの考え方です。

この場合、退職給付債務はすべて出向元で計上することとなりますが、退職給付費用のうち勤務費用分については出向先で計上し、出向元では計上しない(出向先からの支払いにより相殺する)処理となります。そして退職時の退職金の支払いはすべて出向元から行われることとなります。

確定給付型の企業年金制度を採用している場合には、勤務費用ではなく年金制度への掛金を出向先が負担するという考え方もあるでしょう。この場合も、退職給付債務はすべて出向元で計上しますが、退職給付費用のうち掛金相当額は出向先で負担し、出向元では退職給付費用から掛金相当額が控除されることとなります。

退職時(及び退職後)の給付の支払いは年金制度から行われるため、出向元、出向先からの直接の支払いはありません。

転籍時の処理

転籍の場合も費用等の分担は最終的には両社間の契約内容により決まることとなりますが、退職金を転籍先に引き継ぐ場合、退職給付債務もすべて転籍先に引き継ぐというのが1つの考え方です。この場合、転籍時の退職給付債務に相当する額(または退職金額)を転籍元から転籍先に支払うことで、会社間の精算が行われることとなります。

もう1つの考え方は、転籍先を退職した時に、退職金のうち、転籍前の期間に相当する金額を転籍元が負担する(転籍先に支払う)というものです(退職者への給付の支払いは転籍先がまとめて行う)。会社間の精算を、転籍時ではなく、退職時に行うという考え方です。

この場合、転籍後も転籍元には退職給付債務は残ったままであり、退職時の支給額のうち、転籍前の期間に相当する部分について、退職給付債務を計上することとなります。一方、勤務費用については転籍後は計上しないこととなります。

また、転籍先では退職給付債務を引き継がず、退職時の支給額のうち、転籍後の期間に相当する部分について、退職給付債務と勤務費用等を計上していくこととなります。

企業年金制度を採用している場合は、転籍元から転籍先に年金資産が持ち込まれるかどうかで、どちらの考え方になるかを判断すればよいでしょう。転籍元と転籍先が共通の年金制度を実施している場合は資金を移動させる必要がないため、どちらの考え方もとれますが、退職給付債務を転籍先に引き継ぐ場合は対応する年金資産も引き継ぎ、退職給付債務を転籍先に残す場合は年金資産も残すことで整合性が保たれます。

なお、年金制度運営上は年金資産は基本的に(会社ごとではなく)制度全体で管理されるため、退職給付債務や年金資産を引き継ぐかどうかはあくまで企業会計上の取り扱いの決めごととなります。

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退職金については、出向や転籍の際に必ずしも支給されるわけではありませんが、最終的な支給額を出向(転籍)元と先でどのように負担するかをあらかじめ定めておき、退職給付会計上もそれに合わせて処理できるようにしておくことが必要となります。