このブログでたびたび取り上げている年金の繰り下げ受給。65歳から1年受け取りを遅らせるごとに生涯にわたって年金額が8.4%上乗せされる仕組みであり、最大70歳まで(42%増)繰り下げが可能です。今後はさらに70歳以降も繰り下げができるよう、制度の見直しが進められる見通しです(詳しくはこちらの記事)。

現状は、個人単位でみると、繰り下げ後の受け取り開始から12年(≒1÷0.084)で繰り下げしなかった場合の受取総額に追いつき、それ以上長生きすると繰り下げしたほうが受取総額は増えていく計算になります。税金や社会保険料を控除した手取りで考えると正確な計算は難しくなりますが、これらを抜きにすれば受取総額の大小の計算はそれほど複雑ではありません。

しかし、夫婦単位で考えると少々話はややこしくなってきます。例えば、現役時代を会社員(第2号被保険者)として過ごした夫と、専業主婦やパート(第3号被保険者)として過ごした妻の夫婦で、妻が夫の5歳年下であるケースを考えてみます。

夫が65歳になったとき

夫は65歳に到達した時点で基礎年金部分を含む年金を満額受給できるようになり、さらに扶養家族への"家族手当"に相当する「加給年金」も受け取れるようになります(詳しくはこちら)。加給年金は妻が65歳になるまで年に389,800円(特別加算を含む)が支給され、5年間の総額は約195万円となります(18歳未満の子どもがいる場合はさらに加算あり)。

しかし夫が老齢厚生年金の受給を繰り下げると、"家族手当"である加給年金も支給停止となり、あとで増額されることもありません。もし70歳まで繰り下げたとすると、その間受け取れるはずだった195万円を”取り返す”には12年よりも長い年数がかかることになります(65歳時点の老齢厚生年金を120万円とすると、12+4年程度で86歳までかかる)。

この点を考慮すると、老齢厚生年金は繰り下げをせずに65歳から受け取りを開始し、老齢基礎年金のみを繰り下げるという選択肢も考えられます(老齢厚生年金と老齢基礎年金は、いずれか一方のみを繰り下げることもできます)。

妻が65歳になったとき

次に、妻が65歳になったときには、夫への加給年金は終了しますが、その代わりに妻に支給される老齢基礎年金に「振替加算」が上乗せされます。ただし振替加算の金額は加給年金に比べて小さく、今年65歳を迎える1953年(昭和28年)生まれ(※)の人で年に62,804円となっています。

※正確には1953年4月2日~1954年4月1日生まれ。以下同様。

なお、振替加算の額は後に生まれた人ほど小さくなり、2031年以降に65歳を迎える1966年(昭和41年)生まれ以降の人には振替加算はありません。

この振替加算についても、妻が基礎年金の受給を繰り下げた場合は支給が停止され、その後増額されることはありません。1953年生まれの人が70歳まで繰り下げると、5年間で約31万円が受け取れなくなります。

ただ加給年金と比べて金額は小さく、妻が満額(65歳開始で約78万円)に近い基礎年金額を受け取れるのであれば、”取り返す”のに必要な期間は12+1年程度(83歳まで)となります。

夫が亡くなったとき

平均余命は男性よりも女性のほうが長く、さらに妻のほうが5歳年下ということになれば、夫のほうが先に亡くなる可能性が高くなります。このとき、遺族となる妻には「遺族厚生年金」が支給されることとなります。

遺族厚生年金の額は、夫の老齢厚生年金の額の3/4となり、夫が老齢厚生年金を繰り下げ受給していたとしても、65歳時点の老齢厚生年金額をもとに計算されます。つまり、夫の老齢厚生年金の受給の繰り下げは、妻の遺族厚生年金には影響しません。

なお、受給を繰り下げていた夫が年金の受け取り開始前(70歳前)に亡くなった場合には、65歳時点にさかのぼって年金を請求し、65歳から亡くなるまで受け取れるはずだった年金を「未支給年金」として一括で受け取ることができます。

ちなみに、この場合の未支給年金は相続税ではなく所得税(一時所得)の対象となり、(受取額-50万円)×1/2が課税の対象となる所得として計算されます。


<補足>
夫婦共働きで両方が現役時代を主に会社員(第2号被保険者)として過ごし、お互い扶養関係にない場合には、加給年金や振替加算は発生しません(詳しくはこちら)。また、65歳以降はそれぞれに自分の老齢厚生年金があり、配偶者の老齢厚生年金よりも自分の老齢厚生年金のほうが多い場合には、遺族厚生年金の受け取りはありません。