日銀がマイナス金利政策を導入してから2年近くがたとうとしています。国債の利回りは、当初半年くらいは超長期債を中心に下がり続けましたが、その後やや反転し、2017年は大きな動きはありませんでした。

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財務省Webサイトの国債金利情報からデータを取得し、2017年の各月末のイールドカーブを作成すると以下のようになります。
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12本のイールドカーブがほぼ”束”になっており、各年限とも0.1~0.2%程度の幅に収まっています。そして、マイナスとプラスの境目となる年数は各月とも8~9年程度となっています。

このような状況が続くと、残存期間が10年未満の債券に投資しても全く利益は出ないように思えますが、実はそうではありません。

以下のグラフは、2017年12月末のイールドカーブ(残存10年まで)と、各年数の利回りから計算した債券価格(右軸)を重ねたものです。
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※価格は利払いのない割引債として計算

例えば、残存9年のところを見ると、利回りは約0.01%、価格は約99.9円です。満期時に100万円を受け取るには99.9万円を投資する必要があり、9年待っても得られる利益はおよそ1000円(0.1%)だけです。

残存8年以下になると利回りはマイナスになり、価格は100円を超えます(残存8年だと約100.2円)。これらの年限の国債を購入して満期まで保有しても100円分しか返ってこないので、収益はマイナスになります。

では、残存9年の国債をこの時点で99.9万円分購入し、1年後のイールドカーブが全く同じだとしてそこで売却したらどうなるでしょうか?

1年後には残存期間が1年短くなって8年になっていますから、イールドカーブが変わっていなければ価格は100.2円まで上昇しているはずです。したがって、売却額は100.2万円となり、1年間でおよそ3000円(率にして0.3%)の収益が得られることになります。

イールドカーブがずっと変わらなければ、毎年残存9年の国債を購入して翌年に売却するということを繰り返すことによって、ゼロ金利の状況であっても毎年0.3%の収益を確保できるというわけです。これをロールダウン効果と呼んでいます(残存期間が短くなることでイールドカーブの坂を転がるイメージ)。

ちなみに、国内債券の代表的なインデックスであるNOMURA-BPI総合のデュレーション(平均残存期間)は9年程度で推移していますので、今のイールドカーブを前提に考えれば期待リターンは0.3%程度と考えてよいかもしれません。

ところでこのロールダウン効果、退職給付債務の計算でも同様のことが言えます。

例えば、10年後の給付見込額が100万円だとすると、2017年12月末のイールドカーブに基づく残存10年の割引率は0.05%なので、退職給付債務はおよそ99.5万円(100万円を年0.05%で10年割引)、翌1年間の利息費用はおよそ0.05万円(≒99.5万円×0.05%)となります。

したがって、(勤務費用がないとすれば)1年後の退職給付債務の予測額は99.55万円となりますが、1年後も同じイールドカーブだとすると割引率は残存9年に対応する0.01%に下がり、1年後に再計算した退職給付債務はおよそ99.9万円(100万円を年0.01%で9年割引)と、予測額よりもおよそ0.35万円(0.35%)増加することとなります。

実務上はほとんど無視できるくらいのレベルですが、例えば、退職給付債務をイールドカーブによる複数割引率で精緻に計算している場合には、ロールダウン効果による若干の債務の増加が、数理計算上の差異の要因の1つとなります。