企業における高年齢者の雇用に対するスタンスについて、以前こちらの記事で「積極雇用型」「限定活用型」「早期排出型」の3つタイプを紹介しました。そして、積極雇用型と早期排出型、それぞれの企業にふさわしい退職金制度とはどういうものなのかを考えてみました。

【積極雇用型】高年齢者の雇用に積極的な企業にふさわしい退職金制度とは?
【早期排出型】若年齢での転職・独立を促す退職金制度とは?

今回は、残った「限定活用型」タイプの企業にふさわしい退職金制度について考えていくことにします。

ここでいう「限定活用型」タイプとは、高年齢者の処遇にメリハリをつけ、「高年齢者であっても特に必要な人材には相応に処遇するが、その他の社員には法令等に基づく最低限の対応にとどめる」というスタンスを指します。したがって、「その他の社員」を念頭に置きつつも、「必要な人材」への対応も可能な制度設計が求められます。

「その他の社員」に対しては、60歳定年を一つの区切りとして役割や報酬を縮小させることになりますから、一旦退職という形をとって退職金を支給することは、社員の意識を切り替えるためにも必要なものと位置付けることができるでしょう。意識の切り替えには、お金だけでなく、まとまった休暇も効果があるようです。

(参考記事:大和ハウスの「生涯現役」の実現に向けた取り組み

また、60歳以降の給与ダウンによるモチベーションの低下をカバーするという意味で、退職金制度の構成を組み替え、その一部を確定給付企業年金(DB)からの5年確定年金として支給することも考えられます。月額5万円(年額60万円)であれば公的年金等控除の範囲に収まるため、他に年金がなければ全額を手取り収入とすることができます。

一方で、「必要な人材」に対する処遇を考えたときには、60歳以降もそれまでと遜色ない報酬を確保するために、60歳以降の勤務に対する退職金についても検討する余地があるでしょう。

社員にとっては、報酬を給与で受け取るよりは、あとで退職金で受け取ったほうが税制上有利になるケースが多いと考えられるため、給与と退職金の配分を選択できるような仕組みが有効かもしれません。60歳以降の賃金をあえて抑えることで、高年齢者雇用継続給付を受けられるようにすることも考えられます。

また、(60歳までの勤務に対する)退職金の受け取りやDBからの年金も繰り延べできるようにしておくと、ライフプランに応じた柔軟な選択が可能になります。

ただ企業の立場からすると、新たに退職金を設けることで退職給付債務が増えるのは避けたいところでしょう。そうすると、60歳以降の勤務に対する退職金については、確定拠出年金(DC)を活用することが考えられます。

企業型DCの資格喪失年齢は60歳としているケースが大半ですが、65歳まで引き上げることが可能です。仮に資格喪失年齢を65歳とした場合、60歳以上65歳未満で退職した社員はその時点で給付を受け取ることができますから(注)、社員にとって60歳以降の退職金をDCとするデメリットはほぼないといってよいと思います。

注:通算加入者等期間が要件を満たしている場合。詳細はこちら(みずほ銀行のサイト)を参照。

とまぁいろいろ考えてみましたが、こうした制度を構築できたとして、それを有効に機能させるためには、まず高年齢者であっても特に必要とする人材像を明確に定め、制度の仕組みとともに早い段階で社員に伝えていくことが必須であると考えます。