先週12月18日に開催された厚生労働省の年金数理部会にて、厚生年金(第1号…民間の会社員分)と国民年金・基礎年金の2016年度(2017年3月末)財政状況についての報告がありました。過去の記録を見ると2014年度については翌年5月、2015年度については翌年3月の報告となっており、それと比べるとだいぶ早くなっています(それでも9ヶ月かかってますが)。

GPIFによる年金資産運用の結果とは違い、全くと言っていいほど注目されていませんが、公的年金の財政状況を知るうえで重要な情報がまとめられています(資料はこちらに掲載)。

年金財政にプラスの効果を与えた就業者の増加

年金制度の財政状況に影響を与える要素には様々なものがあり、短期的には積立金の運用実績の影響が大きくなりますが、中長期的には就業率や賃金・物価の変動、超長期では出生率や死亡率(寿命)がより大きな影響を与えることとなります。今回の財政状況の報告からは、就業率や賃金・物価の変動による影響を読み取ることができます。

資料には、2014年の財政検証に基づく将来見通しと実績との比較がまとめられており、金額で公的年金の多くを占める厚生年金の収支状況に関しては、保険料が+1.3兆円、給付費が-1.0兆円となっています。見通しよりも収入が増えて給付が減り、収支は改善しています。

保険料のプラス要因は被保険者数の上昇(3,505万人の見通しに対して3,793万人)、すなわち、仕事に就いて保険料を負担する人が予想以上に増えたことにあります。一方で給付費のマイナス要因は賃金(物価)水準が上がらなかったことに連動して、年金額が予想通りには増えなかったことにあります。

賃金は本当に上がっていないのか

給付費だけを見ると、賃金や物価は上がらないほうが年金の支払いを抑えることができるので、財政的にはプラスのように思えるかもしれませんが、実際には逆です。

もし賃金や物価が2%上がっていれば、賃金に比例する保険料収入はあと2%増えていたはずです。一方で、年金額は賃金ほどには上げない仕組み(マクロ経済スライド)が組み込まれており、伸びは1%程度にとどまるため差し引き1%のプラスとなります。しかし賃金が伸びない場合はマクロ経済スライドは適用されず、年金額は物価以上に下がることはありません。

賃金は予想どおりには伸びなかったものの、それ以上に就業者が大幅に増えたことで、保険料収入が増加したということですね。というか、パート社員の厚生年金適用や正社員化などによって相対的に賃金の低い層が大きく加わったことで、平均賃金の増加が抑えられたと考えるのが妥当かもしれません。

だとすると、継続して厚生年金の被保険者であった人だけで見れば賃金は上がっているにもかかわらず、年金額は結果的に伸びていないわけなので、マクロ経済スライドが適用されたのと同じような効果があったと言えるでしょう。

「年金扶養比率」や「積立比率」の実績も見込を上回る

就業者の増加は年金財政の状態を表す他の指標にもプラスの効果をもたらしています。年金受給者1人を、保険料を負担する被保険者何人で支えているかを示す「年金扶養比率」は2.3程度で推移する見込となっていましたが、2016年度の実績は2.54まで上昇しています。

また、1年間の給付費に対し、年度始の時点で給付費の何年分を積み立てられているかを表す「積立比率」については、4.3程度の見込に対して2016年度の実績は4.8となっています。2017年度始はさらに積立金が増加していますから、おそらく5を超えることになるだろうと思います(こちらは積立金の運用が好調だった効果も大きいですが)。

四半期ごとに兆円単位でプラスにもマイナスにも振れる運用と違い、就業率や賃金・物価の動向が年金財政に与える影響は地味で目立たないですが、長い目でみれば運用以上に重要な要素になります。ここ数年の推移は、賃金・物価が上がらないことによるマイナスを運用収益と就業者数の増加でカバーし、総じてみればよい方向に行っているのではないかと思います。