日本では多くの会社が退職金制度を設けていますが、人事政策上の目的を常に意識しながら制度を運営している会社は少ないのではないでしょうか。

最初に退職金制度を設けたときには何らかの目的・理由があったはずですが、時が経過するにつれてそれがあることが前提となり、社員には既得権が生まれ、制度をできるだけ維持することが目的(目標?)化してしまいがちです(退職金・企業年金制度においては持続可能性というのも重要な要素ではありますが)。

では、そもそも人事面から見た退職金を設ける理由にはどんなものがあるでしょうか?その代表的なものは、次の3つの"R"で表されます。
  • Recruit:人材の獲得
  • Retention:人材の定着
  • Release:離職の促進
今回は、このうちRecruitについて考えてみます。

他の条件が同じだとして、退職金のある会社とない会社があれば、当然求職者は退職金のある会社を選ぶでしょう。しかし実際のところ、退職金の有無が就職先を選ぶ決め手になるケースがそれほどあるとは思えません(特に新卒採用の場合)。退職金にコストをかけるくらいなら、給与水準を少しでも上げた方がアピールはしやすいでしょう。

設備投資等に資金が必要で当面キャッシュの流出を抑えたい場合には、給与ではなく(すぐに支払う必要のない)退職金で待遇を改善するという方法もありますが、むしろ最近は投資が控えられ、企業の手元資金が積み上がってきている状況にあります。

一方で、税金や社会保険料の観点では、額面が同じであれば給与よりも退職金で支給する(される)ほうが会社にとっても社員にとってもメリットがあるのですが、これをメリットとして受け取れるのは、年収水準が一定以上の中途採用者に限られるでしょう。

したがって、Recruitという観点で退職金が有効に機能するケースというのは、
  1. よりよい人材の獲得のためには待遇の改善が必要と考えており、コスト増をカバーするだけの収益は確保できる見込みであるが、キャッシュに余裕がないケース
  2. 中途採用で採りたい人材が、退職金のメリットを十分理解できると想定されるケース
くらいに限定されるのではないかと思います。

2点目に関しては、退職金が勤続年数の短い者に対して不利な設計になっていないことや、求職者に提示する労働条件として退職金の内容を明記し、金額をイメージしやすい形で提示できること(勤続1年あたりいくら、○年勤務したらいくら、等)も前提となるでしょう。

また、求職者が企業年金に加入していたケースを想定したときには、その資金を受け入れて積み立てを継続できる受け皿(具体的には確定拠出年金制度)があった方が望ましいと言えます。