先日の日経に、ドトールが非正規従業員向けの退職金制度を導入したという記事がありました。
非正規従業員は7000人のうち、当初対象となるのは330人ということですが、退職金制度は正規従業員を対象としていることがほとんどであり、珍しい取り組みです。

で、その中身はというと、一般的に退職金と言われるもの、つまり給与や賞与とは別枠で退職時にまとまった金額を支給するものとは異なり、従業員が自分の月給から月に1000円~2万円の掛金を拠出し、それに会社側が100円を上乗せして外部の企業年金制度に積み立てるという仕組みのようです。

なので、実質的には社員が自分で退職金を積み立てるための制度だと言えます。発想としては(給与を原資とした)選択制DCと同じですね。給与のうち掛金の積み立てに回す部分については、税金や社会保険料の計算上給与ではなくなるので、掛金を増やすことでこれらの負担を軽減することができます(掛金に回した額ほどには手取りは減らない)。

社会保険料は会社側も負担しているので、その軽減分で月100円の上乗せ原資を確保することができます。

また、今回の仕組みは確定給付型の企業年金(DB)を利用しているため、DCとは異なり、企業や従業員が投資教育や商品選択を行う必要はありません。対象が外食産業の非正規従業員であることを考えると、この点は重要であると思います。ただし将来企業年金制度に積立不足が生じた場合は、会社側は掛金の追加負担が求められるリスクもあります。

さらにもう1つ付け加えると、対象が非正規従業員であることから、掛金の拠出により所得を下げることで、夫(または妻)の配偶者控除または配偶者特別控除による控除額が拡大し、夫(または妻)の税負担も減らせる可能性がありそうです。

このように考えていくと、今回導入された”退職金制度”は、税や社会保険料の仕組みをフルに活用し、会社側の実質的な負担増を伴うことなく、非正規従業員(及びその世帯)が有利に退職金を積み立てられるようにした仕組みであると言えます。