「いくら必要か」という文脈で語られることが多い老後資金ですが、こういう発想も必要ですね。

「老後の生活費+生活費以外に必要なまとまったお金」に対して、年金や退職金ではカバーしきれない部分がいくらになるかを計算し、そこを自助努力で準備しましょう、というのが老後資金についての基本的な考え方です。

しかしこの計算にはいくつもの仮定を置く必要があります。老後の生活費は月いくらか、老後はいつまで続くのか(何歳まで生きるか)、介護への備えはいくら必要が、年金や退職金はいくらもらえるのか、そもそも「老後」を何歳からとするのか…

もっともらしい数値を置いて計算し、必要額を出すことはできます。目安であっても、目標がはっきりすることで不安が和らぎ、計画を立てることができるようになります。

しかし生活費などは人それぞれですし、将来自分や家族がどんな暮らしをするかによっても変わってきます。自分が何歳まで生きるか、いつから介護が必要になるかなんてわかりません。そうしたあらゆる「リスク」に備えようとすると、必要額はどんどん膨らみ、かえって不安を大きくしてしまうことになるかもしれません。

これに対して、上に紹介した記事では発想を逆転させ、「現在の貯蓄+今後リタイアまでに貯蓄できる金額+退職金-今後リタイアまでに必要なまとまったお金」を”My老後資金”として先に決めてしまい、これと公的年金で実現可能な生活を描いてみましょうという考え方を提示しています。

実際のところ、目標額を定めて老後資金を積み立てている人なんてのは少数派でしょうし、リタイアが近づいてきた時点で「これだけ必要です」って言われてもほとんど準備しようがありませんから、すでにあるものでどうやっていくかを考えていくしかありません。それでも多くの場合、なんとかやっていけるのが今の日本です。

たとえ目安であっても先に必要額を計算し、それに向けて計画的に積み立てていくというオーソドックスな考え方を私は否定するつもりはありませんし、リタイアまでの準備期間が十分にあるのならまずはそれで考えてみるのがよいと思います。

ただその考え方がしっくりこない場合や準備期間が限れられている場合は発想を転換し、現状をベースとしつつ、これからどうしていきたいのか、何ができるのかを考えたほうが建設的でしょう。これからの人生100年時代、求められるのは柔軟な発想と、自分はどんなセカンドライフを過ごしたいのかを見い出す主体性だと考えます。