少し前の話になりますが、今年の4月にニッセイ基礎研究所から「人手不足はどこまで深刻なのか」というレポートが出ています(こちら)。

この10年間、生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)は700万人程度減少しており、それに伴って労働力人口(就業者と求職者の合計)も減少すると見込まれていましたが、予想に反して労働力人口はわずかながら増加しています。これは、女性や高齢者の労働参加が予想以上に進んだことによるものです。

労働力人口が増えたにもかかわらず、失業率が低下し、有効求人倍率が高まっているのは、人手不足の要因が労働需要の強さにあるからだとレポートでは結論付けており、これに対して労働力率を高める余地はまだあり、さらに非正規雇用から正規雇用への転換を含む1人当たりの労働時間を増やすことで、人手不足への対応は可能だとしています。

最後の点は、労働参加が進んだとはいえ増えたのは非正規雇用が中心であり、労働投入量(=雇用者数×1人当たり労働時間)があまり増えていないことの裏返しとなっています。

これは、賃金水準の推移にも表れています。下の図は、一般労働者とパートタイム労働者それぞれの賃金の動きです(毎月勤労統計調査より)。
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パートタイム労働者についてはほぼ一貫して上昇しており、一般労働者についてもここ3年は上昇に転じています。これだけ見ると、全体の賃金水準もそれなりに上がっていそうですが、実際の伸びは以下のとおり下振れしています。
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その要因は上の図の棒グラフにあるように、「パート比率の寄与」にあります。相対的に賃金の低いパートタイム労働者が増えつづけているため、全体でみた労働者1人当たりの賃金が押し下げられているのが分かります。

そして、これは国の年金(公的年金)にも影響を及ぼすことになります。国の年金額は賃金と物価の水準に連動するようになっているからです。

公的年金にマクロ経済スライドが導入されて以降、賃金や物価の水準がなかなか上がらなかったために、実際にスライド調整が適用されたのは1回だけであり、賃金・物価水準を考慮した実質的な年金額の水準は当初の計画よりも高止まりしています。

しかし、これまで仕事に就いていなかった人がパート社員として就職することによる賃金水準の低下は見かけ上のものであり、この点に関しては本来の賃金水準の伸びに対して年金額の伸びを抑える方向に作用していると言えます。