先週の記事で紹介したように、今年中にはリスク分担型企業年金(RS)を実施する例が出てきそうな状況ですが、RSを実施する上で大きな課題の1つとなるのがガバナンスです。年金資産の運用状況によって給付額が自動的に調整(増額または減額)される可能性があるため、資産運用に関する意思決定に加入者が参画することが求められます。

従来の確定給付企業年金(DB)でも「運用の基本方針」を定め、これに従って資産運用に関する意思決定を行っていくことが法令上定められていますが、RSではこの基本方針がより重要な意味を持ち、また策定にあたっての考え方も、従来のDBとは異なる視点が求められます。

従来のDBでは運用の巧拙は事業主にとっての負担の増減につながるため、掛金の追加負担能力や退職給付会計を通じた業績への影響という観点から、企業にとって望ましい運用のリスク・リターンを選び取っていくことになります。

これに対してRSでは運用の巧拙は加入者にとっての給付の増減につながるため、運用目標として、給付を増やす(調整率を1より大きくしていく)ことを目指すのか、給付を減らさない(調整率が1を下回らないようにする)ことを目指すのか、といったことが重要になります。

(ちなみに、RSと同様に積立不足に対する母体企業の追加拠出が存在しない企業年金連合会では、運用の基本方針の中で「積立不足に陥る可能性を極小化させることを目指す」と明記しています。)

仮に、給付を減らさないことを目標に置く場合でも、いま50歳の加入者が60歳を迎えたときに調整率が1を下回らないことを最も重視するのか、いま20歳の加入者が60歳を迎えたときに調整率が1を下回らないことを最も重視するのかによっても取るべき運用のリスク・リターンは違ってくる可能性がありますから、加入者のどの層に着目するかも論点になり得ます。

また、加入者サイドが運用状況を理解し、意思決定に参画できるようにするには、リスク・リターンを追求するだけでなく、運用の方針や内容が加入者にとってわかりやすく、運用結果について加入者に対して十分に説明可能であることも重要であると考えます。投資対象とする資産・手法の範囲については、こうした点も考慮して定めておく必要があるでしょう。