先週末のNHKスペシャルのテーマは人工知能(AI)でした。
プロ棋士である佐藤名人を圧倒した将棋の電王戦の様子を中心に、実社会でもすでに活用されている例として、タクシー運転手が客を拾うためのナビや、金融市場での取引などが紹介されていました。

しかし投資(特に長期投資)に関しては、将棋やタクシーの客拾いとは異なり、今後AIがさらに発達しても全面的に頼ることはできないと考えます。

成功が本質的に他者に左右される

例えば将棋であれば、ある局面において絶対に勝てる指し手(あるいは絶対に負けない指し手)というのが見つかれば、それに勝るものはありません。タクシーでも、ある時点でどこに向かえば一番早くタクシー待ちのお客さんのところに行けるかには正解があります(他のタクシーにもAIが入っていたら先に取られてしまう可能性もありますが)。

しかし投資で勝つためには、他者が買う前に買って、他者が売る前に売る必要があります。つまり、投資における成功は他者の行動との関係に依存し、絶対的な正解は存在しません。

ファンドマネージャーが全面的にAIになったとして、市場全体に投資するパッシブファンドに勝てるAIを選ぶのは、判断プロセスがブラックボックスになっている分、人間のファンドマネージャーを選ぶよりもさらに難しくなるのではないかと思います。

長期で成果を出すための反復的な学習ができない

AIの強みは反復学習にあります。将棋ではAI同士で何百万局も戦わせることによって腕を磨き、タクシーでは日々の膨大なデータを読み込ませることで予測の精度を高めています。

投資においても、非常に短期の取引であれば膨大なデータを蓄積して一定の法則を見出すことはできるかもしれません。しかし10年、20年という長い期間のデータを数多く取ることはできませんし、仮にできたとしても勝つための法則が長い期間の間には変わってしまう可能性が高いでしょう。

本当の意味での成功を定義するのが難しい

将棋での成功はもちろん相手の玉を詰ませて勝つことです。タクシーではいち早く待っている客のところへ到着することです。

では投資に関してはどうでしょうか。一定の期間において少しでも多くの収益を上げること、と単純に決めてしまってよいでしょうか。
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上のA、Bを比較した場合、最終的に資産額が大きくなっているのはBの方です。しかし最後の1年で大きく目減りしており、Bに投資した人にとっては想定外の損失だったかもしれません。

これに対してAの方は最終的な資産額はBを下回ってますが、安定的に資産を増やすことができており、Aに投資した人のほうが計画は立てやすかったでしょう。

投資に対する個人の満足度は資金計画や心理面とも関わってくるので、単に儲ければ成功とは言い切れず、AIに目標を与えること自体の難しさがあります。


このように、投資に関してはAIに全てお任せというわけにはいきません。ただAIが発達することでより成長力のある企業に資金が回るようになって市場全体の成長につながったり、個人にとってもAIをうまく活用するとこでより良い選択肢にたどり着きやすくなる余地はあると思います。

AIだからといって盲目的にとびついたり、逆に全く無視してしまうことなく、AIの優れた点や及ばない点を見極めて上手に取り入れていきたいですね。