確定給付企業年金(DB)を実施している企業において、加入者である従業員が不正等により懲戒解雇となったとき、通常の退職であれば支給される一時金や年金を支給しないこととできるでしょうか?

先に答えを言っちゃうと「できます」。

DB法及び施行令、施行規則において、次のように定められています。
法第54条 加入者又は加入者であった者が、自己の故意の犯罪行為若しくは重大な過失により、又は正当な理由がなくて療養に関する指示に従わないことにより、障害若しくは死亡若しくはこれらの原因となった事故を生じさせ、若しくはその障害の程度を増進させ、又はその回復を妨げたとき、その他政令で定める場合には、規約で定めるところにより、給付の全部又は一部を行わないことができる。
令第34条 法第54条の政令で定める場合は、次のとおりとする。
1 受給権者が、正当な理由がなくて法第九十八条 の規定による書類その他の物件の提出の求めに応じない場合
2 加入者又は加入者であった者が、その責めに帰すべき重大な理由として厚生労働省令で定めるものによって実施事業所に使用されなくなった場合その他厚生労働省令で定める場合
規則第31条 令第34条第2号の加入者又は加入者であった者の責めに帰すべき重大な理由として厚生労働省令で定めるものは、次のとおりとする。
1 窃取、横領、傷害その他刑罰法規に触れる行為により、事業主に重大な損害を加え、その名誉若しくは信用を著しく失墜させ、又は実施事業所の規律を著しく乱したこと。
2 秘密の漏えいその他の行為により職務上の義務に著しく違反したこと。
3 正当な理由がない欠勤その他の行為により実施事業所の規律を乱したこと又は事業主との雇用契約に関し著しく信義に反する行為があったこと。

規則第32条 令第34条第2号 の厚生労働省令で定める場合は、加入者であった者が実施事業所に使用されなくなった後に前条各号のいずれかに該当していたことが明らかになった場合その他これに準ずる場合とする。
さらに、法令解釈を定めた通知では以下のようになっています。
令第34条第2号の規則第31条各号に掲げる理由によって「実施事業所に使用されなくなった場合」とは、就業規則等の規定による懲戒免職に限り、就業規則等の規定に基づかない事業主による恣意的な解雇は当たらないこと。また、規則第32条の「その他これに準ずる場合」とは、当該加入者又は加入者であった者が規則第31条各号の事由に該当し、かつ、当該者がいわゆる諭旨解雇により実施事業所に使用されなくなった場合に限るものであること。
つまり、逆に言えば懲戒解雇や諭旨解雇に該当するようなケースでなければ通常通り支給しなければならないということでもあります。(ちなみに「懲戒免職」というのは通常は公務員に対して用いられる用語で、民間企業における懲戒解雇と同等と考えてよいようです。)

では他の制度ではどうなっているかというと、まず中小企業退職金共済(中退共)についてはDBと同様の規定になっています(中小企業退職金共済法施行規則第18条)。

これに対して確定拠出年金(DC)の場合は掛金を拠出した時点で加入者個人の資産となり、懲戒解雇を理由にこれを事業主に返還させることはできません。従業員が会社に損害を与え、退職にあたってこれを賠償させるには、別途損害賠償を請求することとなります。

では外部積立を行っていない、退職一時金についてはどうでしょうか。就業規則や退職金規程において退職金の支給について定めている場合にも、同じような基準になるのでしょうか。

会社から直接支給される退職金については、(少なくとも私の知る限りでは)法令上の明確な基準はありません。ただ判例によってある程度の基準が示されています。

<独立行政法人労働政策研究・研修機構のサイトより>
退職金の法的性格と競業避止
退職金と懲戒解雇・不利益変更

上記にによると、やはり懲戒解雇の場合は退職金不支給措置が認められていますが、必ずしも全額不支給というわけではなく、個別の事情に応じて一定割合の支給を認めている場合もありますね。

また、会社によっては退職金規程の中で従業員に対する債権(損害賠償債権や貸付金)を相殺して支払う旨の定めを設けているケースもありますが、このような取り扱いは企業年金では認められません。

ただ(会社支給の)退職金の場合でも無条件に相殺が認められているわけではなく、「労働者の自由な意思に基づくものであると認められる合理的な理由が客観的に存在していたといえる場合」に限られるというのが、判例により示されています(労働政策研究・研修機構の賃金の支払いの諸原則のページを参照)。