確定給付企業年金(DB)において今年から導入されたリスク対応掛金を設定するには、その上限枠である「財政悪化リスク相当額」をまず算定する必要があるわけですが、標準的には計算基準日時点の積立金(年金資産)を種類ごとに区分し、各区分ごとに定められた係数を乗じて合算することとされています。

<資産種類ごとの係数>
国内債券:5%
国内株式:50%
外国債券:25%
外国株式:50%
一般勘定:0%
短期資産:0%

これらの係数は20年に1回程度発生しうる損失幅という考え方で設定されており、値動きの大きい資産種類ほど係数が大きくなっています。

伝統的な資産運用を行っている場合はこの方法で問題ありませんが、資産運用が多様化している中ではこの方法では対応しきれないケースもあります。

1つは上記の資産種類(伝統的資産)に当てはまらないオルタナティブ資産が20%を超えているようなケースてあり、この場合は「特別方式」により算定する必要があります。特別方式の具体的な方法については、年金数理人会から公表されている実務基準に以下のように例示されており、まずはこうした方法の中から検討することになるでしょう(実務基準はこちらからダウンロード可能)。
  • リスク/リターン特性が同等であると判断される伝統的資産(またはその組み合わせ)に相当するものとみなしたうえで標準的な方法により算定
  • 対象資産の代表的なインデックスのヒストリカルデータから1年間の変動率の標準偏差を算定し、これに2.06(※)を乗じた値を対象資産に対する係数としたうえで標準的な方法に準じて算定
…など
※2.06は「20年に1回の損失」を求めるための係数(Tail-VaR95%)

標準的な方法では対応しきれないもう1つのケースは、資産種類としては伝統的資産に該当するものの、運用環境に応じて資産構成比率をダイナミックに変動させるような運用を行っているケースです。この場合は、積立金は伝統的資産で構成されているため、標準的な方法での算定も認められるものと考えられます。

ただ、例えば一時的に運用資産の多くをキャッシュ化したようなタイミングで計算基準日を迎えてしまった場合、財政悪化リスク相当額は小さく計算され、リスク対応掛金の設定可能幅は小さくなってしまいます。

したがって、リスク対応掛金の設定可能枠を大きく確保しておきたいような場合には「特別方式」を採用し、当該運用資産に対しては、平時の資産構成割合や、一定期間における資産構成割合の平均値をもとに算定するといった方法も考えられるのではないかと思います。