会社の近くにある書店に寄ったら、こちらの本が人気ランキングの上位に入っていました。






プロフィールを見ると、著者の楠木新氏は大手生命保険会社(日本生命)で会社人生を過ごし、2015年に定年退職していますが、在職中から社外で執筆・講演活動を行っていたようです。

「定年後」をテーマにした本や雑誌には主にお金の問題を扱ったものが多いですが、本書は、お金では解決できない定年後の現実を明らかにし、当事者への取材を通してセカンドライフへの向き合い方を提示している点に特徴があります。

サクッと読んでみたところ、いくつか印象的なフレーズがあったので以下に紹介します。

資産運用では、リスク軽減の観点から分散投資する手法は常識なのに、仕事になるとそう考えない会社員が少なくない。「仕事本位でなければならない」「本業は一つしかない」と思い込んでいる。
仕事だけでなく、家事や育児もしながら自分の楽しみも手放さない女性に比べて、会社一筋だった男性は会社を離れると仕事や仲間を失い、孤立しやすいことを指摘しています。

仕事をするにしても、会社の外で機会を作ったり見つけることで、定年後のリスクを分散させることができるということでしょう。

私はここ10年余り、会社員から転身した人や中高年になってもイキイキと組織で働いている人たちを取材してきた。そこで感じたのは、小さい頃のことが大切だということだ。定年前後についても同様で、子どもの頃の自分を呼び戻すことは「レールを乗り換える」または「複線化する」際のポイントとなるというのが実感である。
定年後に限らず転職などで新しい職に就こうとする場合、これまで経験した職務や仕事の成果を洗い出して整理すること(棚卸し)は一般的に行われているのではないかと思いますが、「子どもの頃を呼び戻す」というのは新鮮でした。

会社組織から離れ、主体的に活動していくためには、自分が本当に好きなこと、関心が持てることが何なのかを自覚することが重要であり、それはもしかしたら会社人生の中ではずっと抑えてきたものであるのかもしれません。

年に1回の体育祭にも予行演習があるのに、自分が死ぬときにはなぜそういう機会がないのか。しかも死は一人孤独の中で経験しないといけない。また、すでに経験した人の話も聞けないのだ。
著者は、いかに良い最期を迎えるかという観点から、「死」から逆算するという考え方を提示しています。そのために、終活よりも予行演習として生前葬を行い、どんな葬儀にしたいかを具体的に考えることが、今を生きることにつながりそうだと述べています。

本書では、会社員生活は40歳過ぎを境として前後半に分かれ、前半戦の課題は「一人前になること」、そして後半戦は自分の今後のあり方を考える時期と位置づけています。40代そこそこで「死の予行演習」というのはいくら何でも早すぎますが、定年後の予行演習を行っておくことは、それにつながる会社員生活の後半戦を過ごし方を考える上で、有効なのかもしれません。

実際、著者は47歳の時に体調を崩して長期に休職したとき、家でどう過ごしたらよいのかが分らなかったという経験を経て、右往左往、試行錯誤の結果、50歳から執筆活動に取り組むことになったといいます。休職が思いがけず定年後の予行演習になったということです。

企業によっては「リフレッシュ休暇」などの名称で勤続10年などの節目で長めの休暇を付与しているところもあると思いますが、特に高齢社員の活躍の場が限られるような会社であれば、50歳あたりで1か月程度の休暇を与え、定年後の予行演習をしてもらうということも考えられるのではないでしょうか(ある程度事前の準備やサポートが必要になるかもしれませんが)。

それによって社員のモチベーション低下を防いだり、高齢社員が希望するような転身を図ることができれば、企業の経営にとっても社員にとっても望ましいことであり、これも1つの"退職給付"と呼べるのではないかと思います。