昨日の記事では、退職給付の受け取りに関して、同じような状況であっても細かい条件によって税制優遇に違いが生まれる例があることを紹介したわけですが、そもそも退職金や年金に対して税制優遇が設けられる根拠がどこにあるかというと、「就労により収入を得ることが困難になる高齢期において所得を確保するため」ということになるでしょう。

公的年金が細っていく中で、税の仕組みを活用して、現役時代の収入を高齢期にまわすインセンティブを設けることには一定の合理性があると思います。

逆に、それ以外の部分で退職給付をことさら優遇する理由は見当たりません。例えば、40代で支給される退職金に税制優遇を設ける必要性はどこまであるでしょうか。定年時に支給される退職金にしても、リタイアしたからといって一時にまとまったお金が必要になるわけではありません。

本当に必要な税制優遇は何かという観点から退職給付に関する税制をゼロベースで(といっても所得税の枠組みの中ではありますが)作るとしたらどうなるか、ちょっと考えてみました。

退職所得の廃止

上にも書いたとおり、退職時に支払われるまとまったお金が必ずしも高齢期に必要とされる所得にまわるとは限りません。であれば、退職を起因とする収入である退職所得を特別扱いする必要はなく、会社から支給される金銭は全て給与所得として扱うことが妥当でしょう。

ちなみに、会社の立場から見ると、以前は退職一時金の社内引当について一部損金算入が認められていましたが、現在は実際に退職金を支給するときに初めて損金となります。法人税上はすでに給与も退職金も同じ扱いになっています。

退職所得に該当するのは会社から直接支給される退職金だけではなく、企業年金や退職金共済制度から支給される一時金も退職所得として取り扱われています。仮に退職所得が廃止されたとすると、現状ではこれらは一時所得扱いになると考えられますが、もとは会社が従業員のために拠出した掛金ですから、会社から直接支給される退職金と区別せず、これも給与所得扱いとすることでよいでしょう。

なお、現在は確定拠出年金(DC)では60歳未満での引き出しが厳しく制限されていますが、退職所得の廃止と引き換えに確定給付企業年金(DB)と条件をそろえ、引き出し要件を緩和してもよいと思います。

給与所得と年金所得の一本化

残る税制優遇は年金で受け取る場合の公的年金等控除となりますが、これについても給与の受け取りを高齢期に繰り延べたものと考えれば、やはり給与所得として考えていいのではないでしょうか。以前「働いて得た収入よりも優遇されている年金収入」の記事で指摘した課題も解消されます。

となると、結局のところどんな受け取り方法を選択しようが給与所得になるという、極めてシンプルな取り扱いになります。現行の給与所得に合わせる形での給与・年金所得の一本化ともいえます。

こうなると、退職給付の税制上のメリットが全くなくなるように思えるかもしれませんが、そんなことはありません。所得税は累進課税の仕組みをとっているため、年ごとの収入が大きくなるほど税率は高くなります。したがって、生涯を通じた収入の総額は同じでも、収入を平準化した方がトータルの税金は節約できます。
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つまり、退職給付を活用することで、上の図のように現役時代の稼ぎを高齢期に繰り延べ、それによって税負担を軽くすることができるわけです。これは、冒頭にあげた退職給付の税制優遇の根拠にまさに合致するものです。

とはいえ全体としては増税になるでしょうから、そこは現在の給与所得控除の拡大等でバランスをとることが考えられます。特別法人税は廃止でよいでしょう(参考「特別法人税と退職所得控除~年金数理人会の実務研修会より① 」)。

退職給付の機能強化

上記のように退職給付の過剰な税制優遇を見直すことになれば、その代わりに積立段階での規制は大幅に緩和し、「高齢期への所得の繰り延べ」という機能を十分に発揮できるようにしておくことが求められます。具体的には次のようなDC掛金等に関する条件緩和が考えられるでしょう。
  • 企業型DCの掛金上限撤廃(DBと扱いをそろえる)
  • 個人型DC(iDeCo)の加入資格及び掛金上限の緩和と統一(例:被保険者種別や企業年金への加入状況に関わらず年間50万円)
  • 個人型DCの掛金未使用枠のキャリーオーバー(例:40歳時点では、累計50万円×20年=1000万円のうち未使用枠をすべて利用可能とする)
  • 60歳以降の個人単位でのDBからDCへの移換(受け取り方法の柔軟性を確保)
なお、個人型DCの掛金上限統一には、加入時の事業主の証明手続きを不要にするという意味合いもあります(参考「iDeCoの加入者を増やすには~税の3原則の観点から」)。

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仮に今回提示したような税制の変更が行われれば、(年金支給の選択肢がない)社内引当による退職金の税制メリットはほぼ失われるため、企業年金等による外部積立か、退職金前払い(給与への上乗せ)への移行が進むことになるのではないかと思います。

また、定年退職時に全額一時金での受け取りを選ぶ人は少なくなるでしょうから、金融機関による運用(投資)商品の販売対象も高齢世代から現役世代に移り、本来あるべき姿へ近づくことが期待できます。

実際にはこのような大幅な変更を短期間で行うのは現実的ではないと思いますが、小幅な税制改正を毎年繰り返すにしても、将来の目指す姿を明確に打ち出したうえで、現状とのギャップを埋めていくためのステップとスケジュールを考えて実施していくべきであると考えます。