先週の「リスク対応掛金を設定すべきケースとは?」の記事の中で、確定給付企業年金(DB)のリスク対応掛金の活用が考えられるケースの1つとして「手持ちの余裕資金の活用」をあげましたが、余裕資金を退職給付に活用するという観点では、他に「退職給付信託の設定」という方法も考えられます。

企業が保有している現金や有価証券を「退職給付目的の資産」として外部に預けることで会計上は年金資産と同じ扱いになり、負債の部に計上されている退職給付引当金(連結上は退職給付に係る負債)を圧縮することができます。

DBにおける掛金と異なり、退職給付信託は、退職給付債務に対して積立超過とならない範囲であれば、金額や時期を自由に設定できます。また退職給付信託は、退職一時金制度に設定された場合は給付の支払いに、DB制度に設定された場合は掛金の拠出に使われることになりますが、こちらも使用する金額や時期については(給付支払や掛金拠出の範囲内で)自由に決めることができます。

あくまで「退職給付目的」で設定するものなので、それ以外の目的で企業が資金を引き出すことはできないですが(この点はDBの年金資産と同じ)、運用収益による資産残高の増加や退職給付債務の減少により積立超過となり、その状態が一定期間継続すると見込まれる場合は超過分を企業に返還することが認められています(実務上はなかなか判断が難しいところですけど…)。

とういわけで、企業にとってはより柔軟性のある使い勝手のよい仕組みですが、もちろんいいことばかりではありません。DB掛金と比べたときの最大のデメリットは税制優遇がないことです。

まず、信託設定時には損金算入ができません。企業会計上は退職給付信託に設定した時点でBS(貸借対照表)から切り離されることになりますが、税務上は設定された資産が給付の支払いや掛金の拠出に充当されるまでは損金算入されません。また運用益についても非課税とはなりません

税制優遇というのは基本的に何らかの規制と交換条件で与えられるものであり、今回のケースではそれは確定給付企業年金法に従って計画的に積み立てを行うこと等となります。

ただ本体で資産を保有しているのと比べて、退職給付信託によって税務上デメリットがでるわけではないので、例えばBS上の資産・負債を圧縮したい場合には有効な方法だといえます。