先日「確定拠出年金"から"投資を学ぶ」の記事で書いたとおり、確定拠出年金(DC)を実施している企業において、新入社員に対する加入時教育の2大テーマは「自社の制度がどうなっているか」「運用商品の選択肢がどうなっていて、どう選べばよいのか」ということになるかと思います。

このうち後者については上の記事にあるとおりですが、前者の「自社の制度」についてしっかり理解してもらうには、そもそも自社の退職金制度がどういう目的で実施されていて、(DCが退職金制度の一部を構成している場合には)そのうちDCをどう位置付けているかということを、社員の目線で説明できることが必要です。

しかし、「社員にとっての退職金やDCの位置付けを説明してください」と言われて、パッと答えられる企業(人事担当者)がどれほどあるでしょうか?

最近新たに退職金を設けたという会社であれば、その理由があるでしょうから多分問題ないでしょうし、最近退職金制度を見直したという会社であれば、その過程で制度の位置付けについて改めて整理されているかもしれません。

ただ、退職金制度の見直しを行う際の社員への説明が、基本的には従前の制度と比べて「何が変わるのか」「なぜ変えるのか」という点が中心になる一方で、新入社員に対してはまっさらの状態で説明することになります。

したがって、退職金制度を設けた当時の目的や、どういう経緯で制度での見直しが行われてきたのかといったことにはあまり意味がなく、今の制度がこれからの社員にとってどんな意味を持つのかという視点から改めて考えることが必要です。つまり、今の制度を所与のものとして、その位置づけを「後付け」で考えるということです。

もしも退職金制度がなかったとしたら
ではその「後付け」の存在意義をどう考えたらいいでしょうか。そのための1つの方法は「もし退職金制度がなかったら、どんな不都合が生じるだろうか」と考えてみることです。

仮に何も不都合が起きないのであれば、わざわざ労力とコストをかけて退職金制度を続ける必要はなく、制度を廃止して浮いたリソースを他のところに回したほうがいいでしょう。実際、ある時点より後に入社した社員については退職金制度の適用対象外とし、それ以前に入社した社員にのみ経過的に制度を残しているような会社もあります。

しかし、そのような会社は少数であることを考えると、多くの会社では退職金制度に何らかの存在意義を認めているということになります。

もしそれが「ないと他社に見劣りするから」といった消極的な理由であったとしても、もう一歩考えを進めて「見劣りすると何が問題なのか、退職金がないことで社員(あるいは求職者)はどんな不満や不安を持つのか」を明らかにしていくことで、より積極的な理由、つまり社員に対して堂々と説明できる存在意義を見つけることができるのではないでしょうか。

そうして「発見」した退職金制度の意義を明確にしておくことで、DCの投資教育を含む社員への情報提供や教育の実施方針も立てやすくなりますし、将来的に退職金制度を見直す機会が生まれたときには、スムーズに見直しを進めることができるようになるでしょう。

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退職給付制度設計の基本~「人事実務」2016年8月号より