想定利回りの設定により給付の額は大きく異なる
企業で確定拠出年金(DC)制度を導入する場合、特に従来の退職金制度に代えてDCを入れる場合は、制度の設計にあたって「想定利回り」を設定するのが一般的です。例えば、退職金全体の水準が勤続40年で2000万円だったとして、このうち800万円がDCから給付されるようにしたい場合、40年間積み立てた結果が800万円になるように、毎月の掛金を逆算して設定する必要があります(これに対して、退職一時金や確定給付型の企業年金の場合は、給付額そのものの算定方法を定めることになります)。
しかし、DCの給付額は積立期間中の運用利回りによって変わってきますから、この想定を何%とおくかによって、掛金の設定は異なります。簡単のため、掛金の額が40年間変わらないとして、想定利回りに応じた年間の掛金を計算すると、以下のようになります。
- 想定利回り0%:20.0万円
- 想定利回り1%:16.3万円
- 想定利回り2%:13.1万円
- 想定利回り3%:10.4万円
- 想定利回り4%:8.1万円
上記の各ケースにおいて、仮に40年間の実際の運用利回りがちょうど0%だったら、40年後の積立額はどうなるでしょうか。これは上の計算結果を40倍すればいいので計算は簡単ですね。
- 想定利回り0%:800万円
- 想定利回り1%:652万円
- 想定利回り2%:524万円
- 想定利回り3%:416万円
- 想定利回り4%:324万円
実際の制度設計においては、DC制度ができてしばらく(2000年代)は2.0~2.5%程度に設定されることが多かったですが、金利の低下とともに想定利回りの設定も下がってきており、現在ではせいぜい1%台といったところでしょうか。
個人にとっての想定利回りは0%と設定しておく
上で見たように、企業型のDCでは最終的に受け取るモデル金額が同じだったとしても、それが何%の想定利回りで設計されているかによって実際受け取れる金額は大きく変わってきますし、想定利回りの水準はDCが導入された時期によっても変化しています。また、従来の退職金とは別にDCを導入したような場合(給与等との選択制により導入したケースを含む)や個人型のDC(iDeCo)には、そもそも想定利回りという考え方は存在しません。
では個人がライフプランを考える際に、DCの運用利回りは何%とおくのがいいのでしょうか?会社が設定した想定利回りに合わせるのがいいのでしょうか?
仮に会社で入っているDCの想定利回りが2%だったとしても、それは会社が勝手に設定した利回りです。個人にとって重要なのは、会社が設定したモデル金額に到達するかどうかではなく、自分に必要な老後資金を確保できるかどうかです。
しかし、老後までの期間が長ければ長いほど、必要な金額を把握するのは難しくなります。それは、自分が老後をどのように過ごすかということが不確実であることに加え、老後を迎えたときにモノやサービスの値段がどうなっているかは分からないからです。ですので、基本的には今の物価水準をベースに考えるしかありません。
その代わりに、DCの運用利回りも0%に設定しておきます(DC以外で老後に向けた長期積立を行う場合も同様)。これは、利息がほとんどつかなくても定期預金で貯めておけば問題ないということでは決してありません。
将来の収支計画を考える際に、支出側の物価上昇率を見込まないのであれば、収入側の運用利回りも同様に見込まないこととしておくことで、仮に物価が上昇した場合でも、収支(=収入-支出)計画の狂いがあまり出ないようにしておくということです。
何を目標にしてどこに投資するか
したがって、個人にとっての長期的な運用の目標は、物価の上昇についていくということになります。高度成長期のように、日本の経済がどんどん成長している時代であれば、定期預金で国内の銀行にお金を預けておくことで、物価上昇に見合った利息を得られたかもしれません。しかし、今後日本で同じような成長が見込めるとは残念ながら思えません。となると、将来的に物価の上昇があるとしたら、それは日本経済の成長によるものではなく、海外の経済成長によるものとなるでしょう(あるいは日本の国家財政の悪化やそれに対する不信)。多くのものを輸入に頼っている日本では、海外の物価や購買力の上昇が、国内の物価上昇に結びつくからです。
DCのような個人の長期運用では、こうしたことも踏まえて投資先や商品を選ぶべきではないかというのが私の考えです。
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