昨日の記事では、「日本版スチュワードシップ・コードとは何か?」ということについて、制定された背景や金融機関の対応状況も含めてまとめましたが、今日はそれに引き続いて企業年金の側で求められる対応について、考えていきたいと思います。
つまり、企業年金の場合は株式などを直接保有したり売買することはほとんどなく、運用機関を通じて投資を行うこととなるため、投資先企業との対話や議決権の行使といった直接的なスチュワードシップ活動を行う機会はありません。
その代わりに、委託先の運用機関がスチュワードシップ責任を果たしているかどうかのモニタリングを行い、その結果を運用機関や運用商品の評価項目に加えることで、間接的にスチュワードシップ活動を行うというのが基本的な考え方となっています。
以下は、連合会の報告書【概要】から抜粋したイメージ図です。
つまり、一般の企業年金にはほとんど浸透していないというのが現状です。
これは、企業年金としてスチュワードシップ活動を行うことが、企業年金の本来の役割である加入者・受給者への給付の原資の確保(要は必要な運用収益を稼ぐということ)につながっていくイメージを持ちにくいことが、理由にあるものと考えられます。
実際、意見募集の段階では、体制が整っていない中で活動しようとすると、作業負担やコストだけが増大して本来の目的が損なわれるのではという意見もあり、今回の報告書においても「当面、コードの趣旨に賛同し、条件の整っている企業年金から取り組みを進めていくことが期待される。」と記載されています。
また、合同運用(複数の企業年金の資産を同一のファンドで運用)の場合は、単独運用(特定の企業年金の資産を他の企業年金の資産とは分離して個別に運用)の場合と異なり、個々の企業年金の方針や意向がそのまま反映されるものではないことや、パッシブ運用に関しては運用コストが低いことにメリットがある点も踏まえて、「モニタリングを行うかどうかを決定することとなる」とされています。
したがって、基本的には(単独運用も可能な程度に)資産規模が大きく、体制も整っており、間接的であってもスチュワードシップ活動が有効に機能することが期待できる一部の企業年金において、受け入れを検討していくことになるでしょう。
運用機関が顧客に対して受託者責任を負っているのと同様に、企業年金は加入者や受給者に対して受託者責任を負っています(「スチュワードシップ」は「受託者責任」とも訳される)。
したがって、運用機関を企業年金、顧客を加入者や受給者、投資先企業を委託先運用機関に置き換えることによって、以下のような「企業年金版スチュワードシップ・コード」を考えることができます。
一方、 「委託先運用機関の運用能力向上」という部分に関しては、これを企業年金の責任としてしまうのは、ちょっと荷が重すぎる気がします。ひとまずは、「運用機関とのコミュニケーションを深めることで、よりよい提案を引き出すこと」くらいに考えておくのがよいのではないでしょうか。企業年金全体としてそういう意識が高まっていけば、結果として運用機関の能力向上に結びついていくことが期待できます。
昨日の記事でも書いたとおり、スチュワードシップ・コードに法的拘束力はなく、また仮に受け入れるとした場合でも、全ての原則を必ず遵守しなければならないということではなく、実施することでかえって本来の目的を果たせないような場合には、それを実施しない理由を示せばよいことになっています(Comply or Explain(コンプライ・オア・エクスプレイン))。
つまり、示された各原則を遵守することが適切かどうかということを含め、実際どのように対応していくのかを自ら考え判断して表明することが重視されているということですね。
これを機会に、企業年金においては、まず企業年金自身のスチュワードシップ責任について考えてみてはいかがでしょうか。その中で、企業年金としての受託者責任を果たすために、今回の連合会の報告書の中で示されたような、投資先企業に対する間接的なスチュワードシップ活動が重要だということになれば、そこで具体的な取り組みについて考えていくという流れが自然ではないかと思います。
※なお、今回の記事では「企業年金=確定給付型の企業年金」という前提に立って書いています。確定拠出型の企業年金にもスチュワードシップ責任はあるのか、あるとしたらどういものなのか、ということについては、また別の機会に考えてみたいと思います。
<2017/4/4追記>
というわけで、「責任ある企業型確定拠出年金」の諸原則 について書いてみました。
企業年金における間接的なスチュワードシップ活動
まずは今月17日に企業年金連合会から公表された報告書(こちらからダウンロード可能)の内容を確認していくと、企業年金の運用は委託運用が中心。委託運用の場合の基本的な対応を示すと、とあります。となる。
- 運用機関に対して、日本版スチュワードシップ・コードの各原則についてスチュワードシップ活動を行うように求めること
- 運用機関に対し適切なモニタリングを行い、その結果などを踏まえ、運用機関や運用ファンドの入れ替えを実施すること
つまり、企業年金の場合は株式などを直接保有したり売買することはほとんどなく、運用機関を通じて投資を行うこととなるため、投資先企業との対話や議決権の行使といった直接的なスチュワードシップ活動を行う機会はありません。
その代わりに、委託先の運用機関がスチュワードシップ責任を果たしているかどうかのモニタリングを行い、その結果を運用機関や運用商品の評価項目に加えることで、間接的にスチュワードシップ活動を行うというのが基本的な考え方となっています。
以下は、連合会の報告書【概要】から抜粋したイメージ図です。
企業年金における対応状況
2016年末現在、年金基金に関しては、国の年金を運用しているGPIFや、今回の報告書を取りまとめた企業年金連合会など、公的な年金基金を中心に26の団体がスチュワードシップ・コードの受け入れを表明していますが、民間の企業年金に関しては7団体にとどまっており、しかもそのうち6団体は、企業自身が機関投資家である銀行や信託銀行の年金基金となっています。つまり、一般の企業年金にはほとんど浸透していないというのが現状です。
これは、企業年金としてスチュワードシップ活動を行うことが、企業年金の本来の役割である加入者・受給者への給付の原資の確保(要は必要な運用収益を稼ぐということ)につながっていくイメージを持ちにくいことが、理由にあるものと考えられます。
実際、意見募集の段階では、体制が整っていない中で活動しようとすると、作業負担やコストだけが増大して本来の目的が損なわれるのではという意見もあり、今回の報告書においても「当面、コードの趣旨に賛同し、条件の整っている企業年金から取り組みを進めていくことが期待される。」と記載されています。
また、合同運用(複数の企業年金の資産を同一のファンドで運用)の場合は、単独運用(特定の企業年金の資産を他の企業年金の資産とは分離して個別に運用)の場合と異なり、個々の企業年金の方針や意向がそのまま反映されるものではないことや、パッシブ運用に関しては運用コストが低いことにメリットがある点も踏まえて、「モニタリングを行うかどうかを決定することとなる」とされています。
したがって、基本的には(単独運用も可能な程度に)資産規模が大きく、体制も整っており、間接的であってもスチュワードシップ活動が有効に機能することが期待できる一部の企業年金において、受け入れを検討していくことになるでしょう。
企業年金版スチュワードシップ・コード
では多くの企業年金にとって、この「日本版スチュワードシップ・コード」は無視してよいものかというと、そうではなくて、これを自らの立場に置き換えて考えてみるべきではないかと私は考えています。運用機関が顧客に対して受託者責任を負っているのと同様に、企業年金は加入者や受給者に対して受託者責任を負っています(「スチュワードシップ」は「受託者責任」とも訳される)。
したがって、運用機関を企業年金、顧客を加入者や受給者、投資先企業を委託先運用機関に置き換えることによって、以下のような「企業年金版スチュワードシップ・コード」を考えることができます。
- スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを加入者等に周知すべきである。
- スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを加入者等に周知すべきである。
- 委託先運用機関の運用能力向上に向けてスチュワードシップ責任を果たすため、当該運用機関の状況を的確に把握すべきである。
- 委託先運用機関との建設的な「目的を持った対話」を通じて、委託先運用機関と認識の共有を図るとともに、問題の解決に努めるべきである。
- 運用機関(商品)の評価や選定について明確な方針を持つとともに、当該方針については、単に形式的な判断基準にとどまるべきでなく、委託先運用機関の運用能力向上に資するものとなるよう工夫すべきである。
- 運用機関(商品)の評価や選定を含め、スチュワードシップ責任をどのようにして果たしているのかについて、原則として、加入者等に対し定期的に報告を行うべきである。
- 委託先運用機関の運用能力向上に資するよう、委託先運用機関や運用市場環境等に関する深い理解に基づき、当該運用機関との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。
一方、 「委託先運用機関の運用能力向上」という部分に関しては、これを企業年金の責任としてしまうのは、ちょっと荷が重すぎる気がします。ひとまずは、「運用機関とのコミュニケーションを深めることで、よりよい提案を引き出すこと」くらいに考えておくのがよいのではないでしょうか。企業年金全体としてそういう意識が高まっていけば、結果として運用機関の能力向上に結びついていくことが期待できます。
昨日の記事でも書いたとおり、スチュワードシップ・コードに法的拘束力はなく、また仮に受け入れるとした場合でも、全ての原則を必ず遵守しなければならないということではなく、実施することでかえって本来の目的を果たせないような場合には、それを実施しない理由を示せばよいことになっています(Comply or Explain(コンプライ・オア・エクスプレイン))。
つまり、示された各原則を遵守することが適切かどうかということを含め、実際どのように対応していくのかを自ら考え判断して表明することが重視されているということですね。
これを機会に、企業年金においては、まず企業年金自身のスチュワードシップ責任について考えてみてはいかがでしょうか。その中で、企業年金としての受託者責任を果たすために、今回の連合会の報告書の中で示されたような、投資先企業に対する間接的なスチュワードシップ活動が重要だということになれば、そこで具体的な取り組みについて考えていくという流れが自然ではないかと思います。
※なお、今回の記事では「企業年金=確定給付型の企業年金」という前提に立って書いています。確定拠出型の企業年金にもスチュワードシップ責任はあるのか、あるとしたらどういものなのか、ということについては、また別の機会に考えてみたいと思います。
<2017/4/4追記>
というわけで、「責任ある企業型確定拠出年金」の諸原則 について書いてみました。