先週17日、企業年金連合会から「企業年金と日本版スチュワードシップ・コード」と題した報告書が公表されました。この話題に関してはこれまであまりフォローしていなかったので、これを機会にまとめておこうと思います。

日本版スチュワードシップ・コードとは

日本版スチュワードシップ・コードとは、2014年2月に金融庁が制定した「責任ある機関投資家の諸原則」のことであり、冒頭に次のようにまとめられています(コード本文はこちらのページからダウンロード可能)。
本コードにおいて、「スチュワードシップ責任」とは、機関投資家が、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)などを通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、「顧客・受益者」(最終受益者を含む。以下同じ。)の中長期的な投資リターンの拡大を図る責任を意味する。
本コードは、機関投資家が、顧客・受益者と投資先企業の双方を視野に入れ、「責任ある機関投資家」として当該スチュワードシップ責任を果たすに当たり有用と考えられる諸原則を定めるものである。
本コードに沿って、機関投資家が適切にスチュワードシップ責任を果たすことは、経済全体の成長にもつながるものである。
つまり、お客様から資産を預かって運用している金融機関や団体には、その投資先である企業との対話を通じて持続的な成長を促し、それによって(端的に言えば、株価の上昇や配当収入によって)お客様の長期的な利益を最大化する責任(=スチュワードシップ責任)があり、その責任を果たすための原則を定めたもの、ということです。

具体的には、次の7つの原則が定められています。
  1. スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである。
  2. スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。
  3. 投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。
  4. 投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の解決に努めるべきである。
  5. 議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるべきでなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。
  6. 議決権の行使を含め、スチュワードシップ責任をどのようにして果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対し定期的に報告を行うべきである。
  7. 投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。
顧客の資産を預かり、運用して増やす(あるいは守る)ことが「機関投資家」の仕事であることを考えれば、これらの「原則」は、改めて言われなくても当たり前のように思えます。

日本版スチュワードシップ・コードが制定された背景

しかしこのような原則が定められたということは、そうした「当たり前」のことが実行されていなかったということの裏返しだと言うこともできます。

例えば、日本の生命保険会社は「物言わぬ株主」と言われ、投資先企業の経営方針にはあまり口をはさまない、より具体的には、投資先企業の株主総会において、投資家の観点からすれば反対すべき議案(例えば経営状況の悪化を招いた取締役の再任や、合理性の乏しい監査役への退職慰労金の支給など)であっても、反対票を投じないといったことがありました。

これは、株式を保有することが、生命保険会社にとっては保険商品の販売先を確保するための手段の1つとなっているためであり、そうした「持ちつもたれつ」の関係が、投資家としての「当たり前」の行動を妨げていたということです。

経済全体が成長しているときには、こうした問題が大きく取り上げられることはありませんでしたが(むしろ経営の安定性を確保するという点では合理的であったと言うこともできるかもしれない)、経済の停滞が長引く中で、企業の持続的な成長を促すという観点から、機関投資家の果たすべき役割・責任が改めて問われることになった、ということなのでしょう。

以下は、「責任ある機関投資家の諸原則」の「経緯及び背景」からの抜粋であり、これを受けてできたのが、日本版スチュワードシップ・コードです。
平成25年6月、いわゆる「第三の矢」としての成長戦略を定める「日本再興戦略」において、「機関投資家が、対話を通じて企業の中長期的な成長を促すなど、受託者責任を果たすための原則(日本版スチュワードシップコード)」、すなわち「企業の持続的な成長を促す観点から、幅広い機関投資家が企業との建設的な対話を行い、適切に受託者責任を果たすための原則」について検討を進め、年内に取りまとめることが閣議決定された。
なお「日本版」とついているのは、2012年9月に英国で定められたスチュワードシップ・コードがもとになっているためです。

金融機関の対応状況

2016年末現在で日本版スチュワードシップ・コードの受け入れを表明している機関投資家は全部で214であり、内訳は以下のとおりとなっています。
  • 信託銀行:7
  • 生命保険・損害保険会社:22
  • 投信・投資顧問会社:152
  • 年金基金:26
  • 議決権行使助言会社他:7
コードに法的拘束力はありませんが、確定給付型の企業年金の受託機関である信託銀行や生命保険会社は、見たところ全て受け入れ表明済みのようです。

例えば第一生命では、「対話」と「議決権行使」をスチュワードシップ活動の両輪として位置付けており、実際、2014年8月に大手生保で初めて議決権行使の結果を公表しました。 その後、住友生命や明治安田生命も追随しているようです。

ただ、私が実際企業年金を実施している会社に訪問して話を聞いている限りでは、金融機関との関係が目に見えて変わっているようには思えません(企業年金の実施や運営には、依然として大株主である金融機関の意向が強く働いている)。

企業年金が日本版スチュワードシップ・コードとどう関わるのか、ということについては、次回書いていくことにします。