「ちょっと気になる」こちらの本を読んでみました。

ちょっと気になる社会保障
権丈 善一
勁草書房
2016-01-30


著者の権丈善一(けんじょうよしかず)さんは慶応大学商学部の教授で、社会保障政策を専門としています。巻末にある略歴の一部を抜粋すると、
公務では,社会保障審議会,社会保障国民会議,社会保障制度改革国民会議,社会保障制度改革推進会議の委員や社会保障の教育推進に関する検討会の座長など,他にもいくつか引き受けたり,いくつかの依頼を断ったり,また、途中でやめたり.
といった感じで、昨年末には日経新聞の「やさしい経済学」に「公的年金保険の誤解を解く」と題した7回の連載を執筆していました(「運用の『リスク』を Output is central で考える」の記事でも紹介)。

国の年金に関しては何かと誤解が多く、将来に対して過度に悲観的な認識が広がっている感がありますが(あるいは一部にはそれを商売のネタに利用しているフシも見受けられますが)、この本を読むと、日本の年金制度というのは、今の人口・経済状況に適合するようにそれなりにうまく作られているというのがよくわかるのではないかと思います。

(もちろん今後も継続したメンテナンスは必要で、厚生年金の適用拡大や、65歳までの加入期間延長などは、早め早めの対応が望まれるところです。)

ということで、本書の多くの部分は社会保障のうちの年金保険に頁を割いているわけですが、私としては年金よりも医療や介護のほうが問題が大きいと考えていて(お金の話だけでなく、必要な医療や介護サービスを誰がどのように提供していくのかが大きな問題となる)、そのあたりのことは主に最終章の「今進められている社会保障の改革とは?」に書かれていました。

そこでは、医療と介護は「社会保障改革の本丸」とされており、提供体制の改革の青写真として「地域で治し、支える地域完結型医療」というのが掲げられています。記事の冒頭で紹介した略歴にある「社会保障制度改革国民会議」の最終報告の中で提示されているものです。

人口の高齢化が進む中で、従来は医療というのは病気を治して社会復帰させるためのものという位置づけだったのが、今後は慢性疾患の患者に対して病気と共存しながらいかにQOL(Quality of Life:生活の質)の維持・向上を図っていくかという点が重要となり、医療と介護の境目をなくした医療福祉システムの構築が要請されるとしています。

しかし日本は戦後、民間の協力を得ることで医療の提供体制を整備していったこともあり、病院全体に占める公立病院の割合が低くなっていることが、国主導で上記のような要請に応えるための制度改革を進めようとする際に、妨げとなっているとのこと。

(これに対して、西欧や北欧では公的所有の病院が中心であり、これらの国では日本とは対照的に人口千人当たりの病院病床数が1980年代以降、減少に転じているデータが紹介されています。)

そうした状況の中で、日本では、
目下、2025年を目指して、データによる制御機構をもって医療ニーズと提供体制のマッチングを図りながら、病院完結型医療から地域で治し、支える地域完結型医療への医療提供体制の再編が進められているわけです。
ということなんだそうですが(「地域包括ケア」と呼ばれている)、なかなか具体的なイメージがわかないですね。

例えば、私の住んでいる伊丹市でも、老人ホームやデイサービスセンターなどの介護施設が最近特に多くなってきたように思いますが、どんな人が、どんな状況になったときに、どこで、どんなサービスを受けられるのかはさっぱりわかりません。

私の妻は、今たまたま保健福祉に関する仕事をしていて、結構そのあたりの仕組みに詳しそうなんですが、話を聞いても仕組みが複雑で、「こうなったらこういうサービスを受けられる」というのを一言で表すのは非常に難しいようです(年金なら「65歳になったらもらえます」ってはっきり言えますけどね)。

でも特に単身者や、子どもがいなかったり親元を離れていたり、逆に自分の親が遠方にいたりしている場合は、そのへんのところが分かっていないと備えようがないですよね。

改革が目指す方向性としては「地域包括ケア」ということで、地域ごとに体制を整備していくことになるでしょうから、地域から住民への情報提供や、一人ひとりが地域とのつながりを持つことが重要になっていくのではないでしょうか。

ちなみに、今回紹介した本については、今年に入って増補版と「医療と介護」版も出ているようなので、また近いうちに読んでみようと思っています。

ちょっと気になる医療と介護
権丈 善一
勁草書房
2017-01-28