先週19日、金融庁から、金融事業者に向けた「顧客本位の業務運営に関する原則(案)」が公表されました(こちら)。

金融行政の方針転換

「顧客本位の業務運営」という言葉は、英語の ”fiduciary duty"(フィデューシャリー・デューティー)から来たものであり、一般的には「受託者責任」と訳されますが、より趣旨を明確にするために当てられた言葉だと考えられます。検索してみたところだと、昨年の10月頃から使われているようですね。

「顧客本位の業務運営」なんて、改めて言われなくても企業であれば当たり前の話に思えますが、こと金融機関(本文では「金融事業者」という用語を用いており、必ずしも金融機関に限定したものではないと考えられる)に関しては、そうはなっていないと金融庁も認識しているということです。

特に問題としてよく取り上げられるのが、投資信託の販売に関して、お金を持っている高齢者(例えば退職金を受け取ったばかりの人)をターゲットとして見せかけの高金利で定期預金とセットで販売したり、新しい商品をどんどん出して乗り換えの勧誘をしたりといった、とにかく取りやすいところから販売手数料を稼ごうとする営業スタイルです。

現在の森長官が就任して以降、金融庁の方針は、金融機関に対して順守すべき一律のルールを課すやり方(言い換えれば金融機関はそれを形式的に守っていればよい)から、顧客(事業会社や個人)の立場に立ってより良い商品やサービス提供の競争を促すやり方に大きく転換されつつあり、今回公表された「原則」もその方針に沿ったものです。

このあたりの話は、HCアセットマネジメント社長の森本紀行さんが書いているYahoo!ニュースの記事(こちら)に詳しく書いてあります。独特の文体で、1つ1つの記事も結構長いのですが、なかなか味わい深い内容です。

確定拠出年金における顧客本位とは

さて、今回公表された原則は、次の7項目からなっています。
  1. 顧客本位の業務運営に係る方針の策定・公表等
  2. 顧客の最善の利益の追求
  3. 利益相反の適切な管理
  4. 手数料等の明確化
  5. 重要な情報の分かりやすい提供
  6. 顧客にふさわしいサービスの提供
  7. 従業員に対する適切な動機づけの枠組み等
これらを確定拠出年金(DC)に当てはめた場合、どのような課題が考えられるでしょうか。

真っ先に思い当たるのが、運営管理機関による商品ラインナップの選定です。先日、新たにDCを導入する予定のお客様から、運営管理機関から提示された商品ラインナップについての相談を受ける機会があったのですが、見事に同じ系列の銀行と投信会社の商品がずらっと並んでいました。

運営管理機関に本来求められる役割は、言うまでもなく、顧客(ここでいう顧客とは、契約相手先の企業はもとより、DCの加入者となる従業員も念頭におかなければならない)にとって、最善と考えられる商品ラインナップを提示することにあります。

これを「顧客本位」の観点から突き詰めて考えていくと、投信会社を運営管理機関と同じ金融グループ内に持つことの意義そのものが問われることにもなるのではないかと思います。

また、運営管理機関から提示された資料には、個々の商品についての「選定理由」は法令に基づいて「形式的」には書かれていましたが、投資に関してはほぼ初心者である従業員に対して、なぜこのような商品構成としたのかという理由に関しては、どこにも記載が見当たりませんでした。

「顧客本位」の観点から考えれば、DC導入時の従業員への投資教育の中で、どのように商品の説明を行うのかを念頭に置いたうえで、その説明を聞いて従業員が自ら商品を選択することができるような商品構成とすべきでしょう。

商品ラインナップに加えてもう1つ思い当たるのは、いわゆる営業職員による兼業規制です。こちらは主に個人型(iDeCo)における論点になりますが、現在は、金融商品の販売を行う職員が、DCの加入者に対して運用商品の説明等を行うことは法令で禁じられています。

趣旨としては「中立性を保つため」ということなのでしょうが、まだDCに加入しておらず、加入を検討している顧客に対して商品説明を行うことは禁止行為の対象外になっているなど、非常に形式的な規制となっています。

そもそも、今回謳われているような顧客本位の原則が実践されるのであれば、兼業規制などは不要なはずであり、顧客本位の業務運営になっていないことを想定した規制を設けることは自己矛盾以外の何物でもありません。

金融庁として、今回公表された原則の考え方を貫くのであれば、兼業規制は自ずと撤廃に向かうはずだと私は考えています。