前回に引き続き、年金数理人会の研修で受けた講座の内容を紹介します。テーマは医療保険制度。講師は厚生労働省保険局調査課数理企画官の仲津留隆さんで、薬価の決め方をメインに、実際に審議が行われる現場の様子を交えた解説がとても興味深かったです。

医療費の増加要因に占める薬価の影響

薬価といえば、昨年、オプジーボというガンの新薬がメディアでも大きく取り上げられ、緊急的に今年の2月から薬価を半分にするという異例の措置が取られました。薬価とは国が決めた医療用医薬品の価格であり、調剤費から自己負担分を除いた残りは医療保険(国民健康保険または健康保険組合)から支払われることとなります。

日本全体の医療費は毎年2~3%程度伸び続けており、個人的には年金財政よりも医療保険財政のほうが問題は深刻だと思っているのですが、医療費の増加要因は人口の高齢化(75歳以上か未満かで、1人あたりの医療費は5倍の開きがある)よりも、医療の高度化等の他の要因のほうが大きくなっています。

2015年度の医療費は41.5兆円と前年の40.0兆円から3.8%増加しており、そのうち高齢化による影響は1.2%、残り2.6%のうち1.5%が薬の調剤分(7.2兆円→7.9兆円)と大きな要因を占めています。

IMSヘルスのトップライン市場データによると、2015年度の製品別売上(薬価ベース)のトップ10のうち1、2位はC型肝炎の新薬であり、この2つだけで4200億円になっています。2016年度上期は1位は引き続きC型肝炎薬のハーボニーで1150億円、2位には前年度圏外だったオプジーボが入って580億円となっています。

新薬の価格の決め方

これらの新薬の値段がどう決まっているかというと、C型肝炎の新薬については、従来あったインターフェロンという類似薬の薬価をもとに、画期性加算とか有用性加算とかいろんな要素からなる加算率を掛けたうえで、外国での平均価格とかい離が大きい場合は調整を行うなどして算定されています。

2015年8月にハーボニーに最初につけられた値段は1錠(1日分)80,171円。1か月(30日)服用すると、薬代だけで240万円以上になります。

ただ健康保険には高額療養費制度というのがあり、例えば年収500万円程度の場合、月の医療費が240万円あっても自己負担は10万円程度で済み、残りは健康保険から出ます。こうして保険側の負担が増えていくと、最終的には健康保険料の引き上げという形で国民全員の負担増につながっていくことになります。

そこで年間販売額が予想販売額を大きく超えた場合には、2年に1回の薬価改定のタイミングで薬価を引き下げる仕組みになっています。ハーボニーの価格は2016年4月から31.7%引き下げられて54,797円となっています。

一方オプジーボに関しては、これまでの抗がん剤とは全く異なる仕組みの薬であることから、製品総原価に営業利益と流通コストを上乗せする方式で最初の価格が決められています(この時点では外国での販売実績もないため調整なし)。

薬の新規性、有用性が考慮されて、営業利益率は平均値に6割加算されて27%と設定され、2014年9月に最初に設定された価格は100mg(体重50kgの人の1回分)で729,829円。3週間に1回の投与で1月あたり100万円以上になる計算です。

当初はメラノーマという珍しいタイプのガンに対してのみ保険適用だったため、上記のとおり販売額は上位10位圏外の水準でした。しかし2015年12月に患者数の多い肺ガンにも保険適用が拡大されて以降、販売額が急増し、年間1兆円を超える負担が生じるというある医師の試算も出てきたりして大きな議論となり、最終的には2018年4月の改定時期を待たずに、今年2月に価格を半分にするという特例措置が取られることとなりました。

実際のところ、2016年度に入っての販売額は上記のとおり半年で580億円であり、製薬会社側が出した年1260億円という予測に近い額になっています。問題が注目されたことで、製薬会社側には厳しい結果になってしまったという印象です。

ただ今回の経緯を受けてこれまでの仕組みにも問題があったとして、今後は保険適用の拡大の際などには薬価を見直すことや、卸価格との差が一定以上になった場合は定期的な改定を待たずに薬価を見直すことなどが基本方針として示されています。

薬価はどう決めるべきか

さて、もともとの薬価の算定方法に話を戻すと、新薬の研究開発に多大なコストを必要とする製薬会社、薬価が収入に直結する医療機関、保険料や医療費の負担を少しでも抑えたい国や企業・個人と、それぞれの立場があって、バランスをとっていくのが難しい問題です。

それもあって薬価の算定や見直しにあたってはいろんな要素が考慮されているわけですが、それらがすべて客観的な基準で決められるわけでもなく、結局何を基準にして価格が決まっているのかが非常にわかりにくくなっているという印象です。

医療保険財政という観点で考えても将来の負担がどうなるのかは非常に見通しづらく、今後の見直しの方向性がある程度見えている公的年金に比べても、対応の難易度は格段に高く感じます。

今回の講座では、残念ながら今後薬価の決め方をどうしていくべきかという話まではなかったのですが、調剤以外の医療費も含め、医療費の総額をある程度コントロールできるような仕組みを考えていかざるを得ないのではと感じました。