20日の日経に、内閣府が高齢者を「70歳以上」として経済的・社会的な定義を見直すことを提案するという記事がありました。翌日開催された経済財政諮問会議の資料(こちらに掲載)には特にそういった文言は見当たりませんでしたが、次回以降に出てくるのかもしれません。

「高齢者」とは一般的に65歳以降のことをいいますが、制度上、65歳で線引きされているものとして、
  • 雇用(企業は、従業員が希望する場合、65歳まで働けるようにする必要がある)
  • 年金(国民年金は65歳まで任意加入でき、国民年金・厚生年金の支給開始は65歳から)
  • 医療(雇用に連動し、被用者でなくなると健保から国保に移行)
  • 介護(65歳から第1号被保険者となり、保険料の算定・徴収方法が変わる)
といったものがあります。

内閣府が提言したからといって、これらの年齢が一斉に70歳に引き上がることはないわけですが、今後の方向性としては動かしがたいところでしょう。

しかしこれらの年齢の引き上げは、働く意欲のある人にとっては悪いことばかりではありません。まず、希望すれば70歳まで引き続きそれまでの会社で働くことができます。70歳まで働けるような仕事の環境の整備が進むことで、他の企業で働いたり独立する選択肢も増えることが期待できます。

また年金については、現在でも70歳まで受け取りを遅らせることができ、その場合は年金額が42%増えるわけですが、あくまで原則は65歳からとなっているため、65歳以降も一定の収入があると「仮に65歳から受け取ったとした場合に支給停止される額」については42%の増額の対象となりません。

例えば、65歳から受け取り始めた場合の厚生年金が月15万円、勤務先からの月収が42万円の場合、
(15万円+42万円-47万円)×1/2=5万円
が支給停止されるため、厚生年金の受け取りを遅らせても、増額の対象となるのは15万円のうち10万円だけになります。

これが、原則70歳からの支給となれば、60歳台後半にいくら稼ごうと、70歳以降の年金で不利な扱いを受けることはなくなるでしょう。

しかしそもそも原則的な年金の開始年齢を国が決める必要はあるのか?

65歳以上でどれだけ働けるか(働きたいか)は年齢以外の要因よる個人差が大きいですし、一旦リタイアしたけどまた仕事に復帰するということもあるかもしれません。

まずは国民年金への加入期間(保険料を納める期間)を60歳から65歳までに延ばし、基本的に65歳までは「支える側」としたうえで、65歳以降は、
  1. そのまま加入して保険料を納める
  2. 保険料の支払いも年金の受け取りもない「据え置き」状態にしておく
  3. 年金を受け取る
の3つを個人やその時々の状況に応じて選べるようにしておけば、柔軟に対応することができます(もらい始めるときの年金額は1>2>3の順に大きくなる)。

また、収入が増えれば税金や年金以外の社会保険の負担も増えるわけですから、それ以上に「働く意欲」を損なうような支給停止の仕組みはやめるべきでしょう。

「高齢者」が何歳からなのかは国が一律に決めるのではなく、一人ひとりが決める制度にしていくこと。そこに込められたメッセージは「100年安心」などというものではなく、「老後は自分でデザインしていくもの」となるでしょう。