年末が近づいてくると、当社でも12月決算や3月決算に向けて、退職給付会計の計算業務が本格化してきます。

ただ、退職給付会計は、従業員の退職金(もしくは退職後の企業年金)に対する将来の「予測」をもとに計算を行っており、その結果として毎期必ず生じる実績との差(数理計算上の差異)は、多くの企業では翌期以降に費用処理を繰り延べています。

したがって、今進めている計算の結果は、基本的に当期の損益に影響を与えるものではなく、翌期の損益に関係するものとなります(但し、数理計算上の差異を当期にすべて費用処理する方針を取っている企業は、当期末の退職給付債務や年金資産の額が、そのまま当期の損益に跳ね返ることになります)。 

しかし、気をつけておかないといけない落とし穴があります。それが「平均残存勤務期間」です。平均残存勤務期間とは、従業員が平均してあと何年で退職するか?という年数です。

もし従業員の平均年齢が40歳で、全員が60歳定年まで勤務するとしたなら、平均残存勤務期間は20年です(実際には中途退職の可能性を加味して計算するので、それよりも短くなります)。

数理計算上の差異の費用処理を翌期以降に繰り延べている企業の多くは、その費用処理年数を「平均残存勤務期間以内の一定年数」と定めていますが、従業員の平均年齢や中途退職の率が上がると平均残存勤務期間が短くなり、以前に定めた費用処理年数を下回ってしまうことがあります。

この場合、過去に発生した数理計算上の差異の費用処理年数も短くする必要があります(数理計算上の差異とその費用処理方法の詳細についてはPmasライブラリーのこちらのページをご覧ください。なお、過去勤務費用についても同様です)。

例えば、費用処理年数を15年としていた場合、当期(2016年度)の費用処理額は、2001年度~2015年度の各年度に発生した数理計算上の差異の1/15を合計した額となりますが、今回の計算で平均残存勤務期間が14年になったとすると、これをすべて1年短縮して当期の費用処理額を再計算することになります。

ただ、過去に費用処理した額をさかのぼって修正することはしませんので、当期の期首時点で費用処理されずに残っている金額について、残りの処理年数を1年短くすることになります。

上の例でいえば、2016年度の期首時点での処理年数を、
2015年度の発生分:残り15年→14年
2014年度の発生分:残り14年→13年
2013年度の発生分:残り13年→12年

2002年度の発生分:残り2年→1年
2001年度の発生分:残り1年(変わらず)
と、それぞれ変更することになります。

ということは、それぞれに対する当期の費用処理額は、
2015年度の発生分:15/14倍
2014年度の発生分:14/13倍
2013年度の発生分:13/12倍

2002年度の発生分:2倍
2001年度の発生分:変わらず
となり、発生年度をさかのぼるほど、数理計算上の差異の費用処理額が増幅されることになります。もし2002年度に、割引率を引き下げて退職給付債務が大きく増えていたり、年金資産に大きな運用損失があったりして、多額の数理計算上の差異が発生していたとすると、当期の費用への影響も大きなものとなります。

なぜ過去の発生分まで費用処理期間を短くする必要があるのか、その理屈は私には正直よくわからないのですが、平均残存勤務期間が数理計算上の差異(及び過去勤務費用)の費用処理年数に近い場合は注意が必要です。

ちなみに、IFRSだと、数理計算上の差異にあたる「再測定」は「その他の包括利益」で処理されて、その後損益に現れることはなく、また、過去勤務費用は発生した期に一括費用処理することが求められるので、平均残存勤務期間が損益に影響することはありません。