中小企業が退職金の外部積立を行うための制度として、中小企業退職金共済(中退共)という制度があります。確定給付企業年金(DB)や確定拠出年金(DC)のような「企業年金制度」ではないのですが、掛金を損金算入できる点は同じであり、企業年金を実施するよりも簡易な事務手続きで加入することができます。

以前、中小企業に広く普及していた適格退職年金制度が廃止された際に、その受け皿の1つとして認められたこともあって、適格年金から中退共に移行した中小企業も多くありました。

適格年金からの移行期間が終わった後も加入者数は若干ながら増加しており、2016年3月末時点では337万人が加入しています(詳細はこちら)。同時点のDBの加入者数は795万人、DC(企業型)は548万人であり、これに次ぐ水準となっています。

ただその名のとおり、この制度を利用できるのは中小企業だけであり、「従業員数300人以下または資本金3億円以下」という条件を満たしている必要があります(一般業種の場合)。会社の規模拡大により「中小企業」でなくなった場合には、DBやDCに移行することが認められています。

ただ逆に言うと、中小企業である限りは、任意に中退共から抜けてDBやDCに資産を移すことは認められていません。今年5月に成立した確定拠出年金法の改正の中で、中退共に関するポータビリティも一部拡充されましたが、追加で認められたのは合併や会社分割等のケースに限られています。

ひとくくりに中小企業といっても、社員が20~30人くらいの規模だと独自に企業年金を実施するというのはハードルが高いですが、200~300人規模になってくればある程度人事制度も整備され、それに合わせて退職金や企業年金制度を組み立て直すニーズも出てくるでしょう。

そうしたときに中退共に入っていると、そこが制約となって、全面的にDBやDCに移行したくてもできないというようなことも起こりえます。従業員から個別に同意を取って中退共を解約することはできますが、その場合はその時点で「解約手当金」が従業員に支給されることとなり、退職するまで会社が預かっておくことはできません。従業員にとっても退職所得ではなく一時所得の扱いになってしまうため、余計な税負担が発生する可能性があります。

過去に中退共に積み立てた掛金は従業員が退職するまでそのまま置いておき、将来分は中退共への掛金を止めてDBやDCの掛金に回すということが可能であれば、そうした選択肢も考えられますが、中退共に加入している限りは(休職等の場合を除き)月5000円以上の掛金を納める必要があります。

うがった見方をすれば、このような「入るのは比較的簡単だけど抜けるのは色々と制約がある」という仕組みが、中退共の加入者数を維持することにつながっているのかもしれません。